*BL Original novel・1*
□只今本番中
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住吉くんが小声で話しかけてきた。
「ねえ、木月さん。この3人の絡みって、やばくないっすか?」
僕はちらっと宮元さんを窺う。
「俺と宮元さんで木月さんを奪い合うような話でしょ、これ」
しれっと変なこと言う住吉くんに、ぼわっと赤くなった顔を見せてしまった。
「お、お話の中でだろ!だいたい、ちゃんと、お話の登場人物を把握して演じないとダメだから…」
その時、むんずと、後ろの襟元を掴まれた。
「マリ、こっち来い」
ずるずると引き摺られるようにソファーの上を宮元さんの隣まで引き寄せられた。
僕の頭上で…なにやら不穏な視線がぶつかり合ってるような気がするけど、気がつかない振りをしよう。
「みやもっちゃん、そろそろいい?」
わざわざ名指しでスタンバイの確認が入った。
それだけ、僕らと宮元さんは格が違うんだ。
「あー?どうぞ」
大きなあくびまでしちゃって、宮元さんは立ち上がった。
慌てて僕も住吉くんも、台本を手に立ち上がる。
マイクが三本。
三人だけの出演者だ。
一応主役の僕が真ん中。
右に宮元さん、左に住吉くん。
アテレコならいいんだけど、声のみじゃあ、顔をどこに向けていいかわからない。
左右の二人は、軽く真ん中に身体ごと向いた。
テストが始まった。
最初は、右に左に視線も顔も振っていたけど、忙しすぎるので、台本とマイクだけを行ったり来たりするようにした。
両側の頬に突き刺さるような視線が痛い。
「よかったよ、木月ちゃん。揺れる乙女心…いや、男心か、よっく出てるねー」
監督さん…変なこと言うな…。
住吉くんがにやにやしてる。
宮元さんはますます不機嫌そうに眉をひそめてる。
「木月さーん。ここのタイミングなんですけど」
住吉くんが台本を指し示しながら近付いてきた。
「これって最後同時にいっちゃうんでしょ?どうやってタイミング合わせます?」
うわ。露骨な。
「え、えっと…。目、目で合図かなあ…」
「了解!俺の目、見てて下さいね」
「あ、う、うん…」
「…はっ、……童貞かよ…」
宮元さんがぼそっと言った。
住吉くんは聞こえない振りしてマイクに戻って行った。
どっちが大人なんだ?!
「時間おしてるんで、通しちゃうよ。あとで抜きで録り直しするから」
不機嫌そうな宮元さんは、カバンからペットボトルを取り出して、ごくごくと飲み干した。
僕と住吉くんは慌ててマイクの前にスタンばった。
宮元さんがゆっくりとマイクの前に立つ。
体を斜めに向けて、片手で台本を構える。
台本から顔を上げて、僕の方を向いた。