*BL Original novel・1*

□ガラス越し
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掃除洗濯を済ませて(なんだ、この家政婦状態は)、台本でも読んでおこうかなって、リビングに向かった。
テーブルの上に置いてあった台本を手にとって、げっ、と思わず声を上げた。
慌てて中身を開く。
最初のキャストに僕の名前なんかありゃしない。
テーブルの下やソファーの上をとりあえずキョロキョロ見渡してみたけど、僕の台本が無い。

宮元さん…
台本間違えて持って行った…

宮元さんの名前が一番最初に書かれているその台本を手にしたまま、しばし呆然と…している場合でもない!

録りは何時からだ?
間に合うかな?
携帯はマナーモードで出やしない。

現場で新しいの貰えるならそれでもいいけどさ。
赤ペンでいっぱい書き込んであるこの台本、あったほうがやっぱりいいだろ…。

とりあえず事務所に電話した。



   *


スタジオの方ではなくて、その横の機械が並ぶ部屋に通されたのは初めてだ。

スタジオに台本を届けに来た僕は、すでにテストが始まってしまってるスタジオではなくて、ミキサーさんたちのいる、こっちの部屋に通された。

「今始まったばっかりだから、次止めるまでここで待ってて。しかし、助かったー!みやもっちゃん、いつ暴れ出すかという状態だったからねえ」

ははは…と宮元さんの台本を胸に抱えて、スタジオの中が見渡せるガラスの前の椅子に腰掛けた。

スタジオよりも狭いこの部屋の中には、スタジオからの声がスピーカーから流れて部屋に満ちている。
ガラス越しに、真ん中のマイクに立つ宮元さんの背中が見える。
僕がここから見てるなんて、もちろん気が付いていない。
こちらからは中の様子がよく見えるけど、向こうからはこっちの様子はほとんど見えないんだ。
宮元さんの向こうにはモニターから映像が流れている。
片方だけのヘッドフォンを付けた宮元さんは、台本とモニター両方に目をやり、合間合間にがりがりと台本に何かを書き込んでる。
ああ、早くこの台本届けたいのに…。
ちょいちょい、っと監督さんが僕を呼んだ。

「ここ押しながらしゃべってみていいよ」

「え…何を…」

ごにょごにょといたずらを耳元で囁かれて、

「め、めっそうもない!」

と、両手を振って断ったものの、肩を押されて監督の座っていた椅子に無理矢理座らされてしまった。
監督が僕の後ろからボタンを押す。
仕方なしに、目の前にあるマイクに顔を寄せた。
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