*BL Original novel・1*

□ボイスん。リバース
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@

甘い声が囁いている。
「愛してる」なんて…。
だけど、その声を持った姿がそっと肩を抱き寄せるのは、美しい人。
横に並ぶのは、僕じゃなくて…お似合いの、美しい女(ひと)…。





手からバサッと台本が落ちた。
いつの間にか眠ってしまっていたソファーでぼんやりと目を覚ました。
週末のロードショー番組はいつの間にか終わってしまっていて、テレビではお笑い番組が始まっていた。
全然読めなかった台本を拾い上げ、テレビを消して自室へと向かう。
この頃は仕事の量が増え、かなり体が疲れてる。
宮元さんが主演の声を当ててる映画も楽しみにしてたくせに、子守歌代わりに居眠りしてしまった。

今日事務所から渡された、次回の事務所製作のお芝居の台本は、まだキャスティングに名前が書かれていない。
明日の顔合わせの時に発表するらしい。

映画もラブストーリーなら、台本も甘いラブストーリーだった。

主役の声は全て宮元さんで再生できるけど、他はよくわからない。
僕の役もよくわからない。

ただ…そんな宮元さんの声を受け止められる台本に出てくる女の人のことを…うらやましいと思った。

だから、居眠りの短い時間に変な夢見るんだ。

はあ。

溜息ついても始まらない。

明日も仕事だ。

その後、宮元さんに会える。





   *



最近始まったラジオ番組の収録を終えると、慌てて電車に飛び乗った。
アトリエへの集合時間に完全に遅刻だ。

どうせ今度のお芝居は脇役だろうから…なんて、気楽な風を装ってみても、あー…根が真面目なんだ、きっと。遅刻という事態に焦ってる。宮元さんに怒鳴られる。
「仕事で遅れました…」なんて言い訳しても、「おせえぞ!!ふざけんな!」とか言って、怒鳴られるんだ。
あー…。
どうか、周りに迷惑をかけていませんように…。



    *

「すいません!遅れました!」

そっとアトリエのドアを開け、中の様子を窺ってから、思い切って声を上げながら部屋の中に飛び込んだ。
なんだか、喧々囂々!アトリエの中は、わいわいとした騒ぎが起きていたから、慌てて飛び込んだんだ。

「おせえぞ!マリ!」

きた!っと、肩をすくめて続く怒鳴り声に備える。

一瞬、アトリエの中が、シン、として、みんながいっせいに僕を見たような気がした。

「すいません…。その…、仕事が長引いて…」

「ほら!言ったじゃないですか!」

僕の言い訳に真っ先に反応したのは、宮元さんじゃなくて、……えっと…。

「木月さんは最近仕事が忙しそうじゃないですか。稽古に来れる時間なんてあるんですか?!」

あ…。
一度事務所で会ったことがある。
岩井…さん。
僕と同い年くらいなんだろうか?
僕よりは随分と大人っぽい、というか、しっかりした人という感じだ。
けど、その人が、宮元さんにくってかかってる。
何が…?
床に直に座って、壁に寄りかかっている姿の高岡先生が僕のことを手招きした。
急いで靴を脱いで、先生の元へと滑り込んだ。

「マリ!お前はこっちに来い!」

とたんに宮元さんの怒鳴り声が投げられた。
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