*BL Original novel・1*

□デート日和
1ページ/2ページ

いつもなら、こんなに早い時間の電車には乗らないんだけど…。

うう…。

通勤時間と重なったラッシュアワーの電車の中で、ドアに押し付けられた身体は身動きが出来ない。
ウォークマンに入れたデモ曲に集中しようとしても、それどころじゃない災難が襲ってきた。

ジーンズの尻のあたりをさわさわと撫でてくる感触。
ぐいぐいと脚の間に膝を割り込ませようと力が込められてる。

まさか…。

男の僕が…こんな目に合うなんて…。
気のせい…かな…。

電車が駅に入って、でも全然人が降りなかったけど、少し体を移動させた。

だけど!
ガタン!と動き出した電車の揺れで、また背後にぴったりとくっつかれた!
その手が、尻じゃなくて…前に回って来た時には、かあっと顔が熱くなった。


「痛っ!」

背中から小さな声が上がった。
同時に、不審な手の感触が消えた。
背後の気配が明らかに別の人と入れ替わった。
ちらりと振り返る。
僕よりも頭一つ背の高い、真面目そうな男の人と目が合った。
その人が、ちらっと視線を送る方には、この満員の中をハタ迷惑に移動していく黒い頭が見えた。
またその人を見上げると、その人は軽く僕に頷いて見せて、顔を窓の外に向けた。










「あ、あの!」

終着駅で電車を降りると、僕の後から降りてきたその人に声をかけた。

「先程は…その…助けて頂いて…」

その人は小さく笑って、口元に人差し指を一本立てた。

確かに…、男が痴漢に合っていたなんて、誰かに聞かれたら恥ずかしい。
でも!
お礼は言わなくては!

「ありがとうございました!その…助かりました」

にっこり笑うと、その人は軽く片手を上げ、ホームの人の流れに消えて行った。








改札を出て、待ち合わせをしていた人物を探すけど見当たらない。
まったく…また遅刻か…。
ふう、っと、適当な柱に寄りかかった。
しばらく音楽に没頭していたけど、ふと見ると、改札を出たあたりに、さっきの男の人が立っていた。
しきりにおばあさんに話しかけられて、キョロキョロしながら指差ししたりしてるところをみると、まるで道を尋ねられてるお巡りさんみたいだ。

おばあさんが頭を下げながら立ち去ると、その人は僕に気が付いた。
照れ臭そうに笑う。

「千堂さん!」

そう呼ばれて、その人は振り返り、嬉しそうに笑った。
息を切らせながら駆けてきた人も、嬉しそうに笑ってる。

「すいません!遅れて!電車がちょっと遅れちゃって…」

「まいったよ。不慣れな場所なのに、やたらと道を聞かれる」

「あはは!」

なんだかすっごくいい人なんだな。
とか、感心した。

その人が待ち人と一緒に僕の前を通りすぎるときに、軽く会釈してくれたので、僕も頭を下げて見送った。

あの二人は…恋人同士なのかもしれない…。

なんて…。

なんだか、ボーイズラブの仕事をやり過ぎかな?




で…。

僕の待ち人は…。

「おまた…」

ふあああ…と大あくびをかましながら、のんびり改札から出てきた。

「電車が遅れたんですか?」

「知ってるなら聞くな。…何ニヤけてんだ?」

遅れてきたくせに、先に立って歩く宮元さんを慌てて追いかけた。

「宮元さん、誰かに道を尋ねられたことってありますか?」

「はあ?ねえよ、んなこと」

「ですよね!」

それはそれで、思わず笑ってしまった。




僕らも恋人同士に、見えるのかな?


今日はデート日和だね。








(おしまい)



BL Original novel TOPへ
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ