*BL Original novel・5*

□怪獣の飼い方
1ページ/3ページ

生徒会長の宮元先輩に追い掛け回される日々…。
理由は、信じられないことだけど、僕のことを気に入った…というか、好きだとか、なんとかで…。
うるさくて、強引で、我儘で、自信過剰な宮元先輩。
だけど、本当は、少し照れ屋で、優しくて、頼りがいがある人なんだ…。
なんて!ほだされそうになっていた自分の心を両の手の平で、パンパンと叩いて引き締めた。
あんな!怪獣みたいな人、離れて見ていても怖いのに、近くにいたらもっと怖い!
近くにいたら…。この頃、宮元先輩の近くにいると、心臓がキュッキュッと痛むんだ。きっと、恐怖で僕の心臓が縮み上がってる音だ。このままじゃ、僕の心臓が持たない。



放課後、恐る恐る教室のドアから廊下を覗った。よし!まだ怪獣は現れていない。
僕は一目散に昇降口を目指そうと教室を飛び出し、一歩目に立ち止まった。僕の前に、誰かが立ち塞がったんだ。

「2―A、放送部の木月真理!ちょっと話があるんだけど!」

僕の目の前に現れたのは、大きな怪獣ではなくて、小さな風紀委員の岩井くんだった。(あ、僕より背が低いからって、小さな、とか言ったら失礼だよね…)
岩井くんは、怒っている。

「あっ!廊下を走ろうとしてごめんなさい!気をつけます!すいません、急いでるので…」

僕は、ぺこりと頭を下げ、早歩きで岩井くんの横を通り抜けようとした。だけど、岩井くんに腕を掴まれた。

「話があるって言っただろう!ここでもいいけど…、ちょっと来てよ!」

岩井くんは、掴んだ僕の腕をぽいっと離すと、クルリと僕に背を向けて、ズンズンと廊下を歩き始めた。その背中は、まるで小さな怪獣だった…。



人気のない学食前まで来た時に、岩井くんは立ち止まり振り向いた。さすが風紀委員、廊下は走らなかったけれど、その分、早歩きのスピードは大したもので、僕は息切れを整えた。
岩井くんは、やっぱり怒った顔のまま、僕に言った。

「単刀直入に言うけど、宮元先輩に木月は相応しくない!今すぐに身を引いてよ!」

僕は、言われた言葉がうまく飲み込めず、キョトンとしてしまった。そしたら、その態度が気に入らなかったらしく、岩井くんはますます怒った顔になった。

「そうやって!僕は何も知りません、みたいな態度で付け込もうとするような奴が僕は大っ嫌い!」

大嫌い、といきなり言われれば面食らってしまう。

「あの…、僕は別に…、宮元先輩のこと…」

好きだ好きだと追い掛け回され、一緒に過ごすことも確かに多い。だけど、僕と宮元先輩は、どういう関係なのかと聞かれたら、僕には返事をすることが出来ない。

「あ、そう?!宮元先輩のこと、何とも思ってないんだ?正直ウザいって思ってる?本当は顔も見たくないほど大嫌い?」

「え…」

そんな激しい言葉で責められると、頭が混乱してしまう。
宮元先輩は、怖くて、うるさくて、強引で…。
だけど…。あの声は好きかもしれない。張り上げる大声よりも、少し照れたように口ごもる時の声が好きだな。あ、そうか。宮元先輩は、実は照れ屋なんだろうな…。

「木月!人の話を聞いてるの!?」

目の前の岩井くんが床を踏み鳴らした。

「あ、ごめ…。えっと…。ど、どうして、岩井くんが僕にそんなことを聞くの?」

逆にしてみた質問に、岩井くんは怒り以外の理由でパアッと顔面を赤く染めた。

「ど、ど、どうだっていいだろ!木月には関係ない!僕は別に!宮元先輩のことなんか、なんとも思ってないから!!」

え?!岩井くんは、宮元先輩のことが好きなのかな…?

「とにかく!宮元先輩にはもう、まとわりつかないでよね!」

そんな言葉で責め立てられても、素直に「うん」と言えない僕がいる。だって、僕が纏わり付いてるんじゃない!

「でも…」

少しは言い返そうと口を動かすと、すかさず岩井くんがまたまくしたてた。

「宮元先輩のこと、嫌いなら嫌いって、ここではっきり言ってよ!嫌いな理由をいっぱい並べまくってもいいよ!嫌いなんだろ?!どこが嫌い?!全部?!」

宮元先輩の、怖いところ、強引なところ、我儘なところ…。
だけど、だけど、「嫌いだ!」なんて、なぜか口に出せないんだ。心の中には、はにかんで笑う、宮元先輩の顔が浮かんでくる。
逃げまくっていたくせに、変なの…。
こんな場面、オロオロしている僕の隣に、宮元先輩が居てくれたらな、なんて…。
いつも、気が弱くて何でもかんでも逃げ腰の僕の横に、あの宮元先輩が居てくれたなら…。
もしかしたら僕は変われるかもしれない…。
心に浮かべた宮元先輩の姿が、僕に勇気を与えてくれた。

「みっ、宮元先輩のこと!きっ、嫌いじゃないですっ!」

思い切って言ってみた。目の前の岩井くんは不機嫌そうに眉を寄せる。

「でも、君、宮元先輩から逃げまくってるじゃない」

岩井くんが言ってくる。

「にっ、逃げてますけど…、そ、その!ちょっと怖かっただけです!宮元先輩はいい人だと思ってます!だだ、ちょっと…、声が大きいから怖かっただけで…。で、でも!きっといい人です!ちょっと、大人しくしていれば、たぶん…」

「好きなら好きって、はっきり言えばいいだろ!」

岩井くんが僕を怒鳴りつけた。

「そうじゃなきゃ、僕が宮元先輩、取っちゃうからね!」
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ