*BL Original novel・5*

□小悪魔くんの落とし方
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昼休みの中庭の、隅っこのベンチに座って、僕は一人でお昼のパンを齧っていた。
学校の昼休みは苦手だ。
腹を減らした獣たちは大騒ぎしてるし、腹を満たされた獣たちも大騒ぎしてるし…。
うるさいのは苦手だ。
僕は、食べ終わったパンの包みをぐしゃっと丸めてポケットに突っ込んだ。そして、コーヒー牛乳に手を伸ばした時に、僕を大きな影が包み込んだ。顔を上げてその影を確かめる前に、誰かが僕の横に座った。

「…お前、俺と付き合わないか?」

突然言われた言葉に、コーヒー牛乳を吹き出すかと思った。そんな言葉は慣れているけれど、午後の寛いだ一時、油断していた。
言葉を発した人物を確かめようと首を横に向けた途端、その人物が誰なのかがわかり、僕はベンチから飛び上がりそうになった。
生徒会長だ!
うちの高校の、カリスマ(という噂の)生徒会長、三年の御園(みその)先輩が僕の隣に座っていた。そして、何かとんでもないことを言った…のは気のせい!?…じゃないとしたら、言うべき言葉は一つ。

「お断りします」

例えそれが会長であったとしても、答えは一緒だ。
会長はニヤリと笑ってみせた。

「いいから、俺と付き合ってるってことにしておけ」

「は…あ…?」

ふと気が付くと、少し離れた場所からは、会長の取り巻き達がこちらを監視するように睨んでいる。関係ない奴らもちらほら、興味津々にこちらを見ている。

「一年三組、波野海霧(なみのかいむ)」

会長は、僕にもう数センチで触れてしまう位置から僕の名前を呼んだ。近くで見ると、会長は噂以上のイケメンだった。僕でさえ、思わずドキリとしてしまうほどの…。
会長は、そのまま、僕の耳元に顔を寄せた。そして、小声で囁いた。

「…お前を取り合って、今、とある二人が取っ組み合いの喧嘩を始めようとしていた…。バスケ部主将と野球部主将の二人だが…。どちらかと、付き合う気はあるのか?」

僕は思い切り首を振った。
会長は、僕から顔を離し、僕の顔をジッと見つめてきた。

「なるほど。可愛いね、お前。男を惑わす小悪魔ってやつなの?」

僕は会長を睨み返してやった。そして言ってやった。

「迷惑です。男子校だからって、女々しそうなやつとか、弱そうなやつを性欲のはけ口に狙わないでください。学校に引きこもってないで、一歩外に出たら女が星の数ほどいますよ」

僕は、捨て台詞のように言い放つと、会長の隣で立ち上がった。だけど、会長が、僕の手首を掴んだ。

「あいつらのことをそんな風には言うな。一応、俺の友人だ。…なあ、相談…というより、取引だ。話を聞いてくれ」

会長の真剣な目に、逆らえずに僕はもう一度ベンチに腰を下ろした。

「俺とお前が付き合う。それによって、少なくても二つ、いいことがある」

「…なんですか?」

会長と僕が並んで座るベンチには、周りからの視線が矢のように突き刺さってくる。なんだか落ち着かない。けれど、会長の話も興味をそそられる。

「一つ、校内の争い事が減る。少なくとも、お前に恋心を抱く男同士の争いが無くなるわけだ。俺が相手じゃ、皆、諦めるしかないだろ?」

すごい自信だ…とも思うけれど、確かにそうだ、とも認めるしかない。会長に敵うやつはこの学校に居ないだろう…と思う。…とは言っても、僕にとってはどうでもいいことだけれど!

「もう一つは?」

「お前の身の安全が図れる。煩わしかったんだろ?言い寄ってくる奴らが。だったら、俺が恋人になったなら、それももう、無くなるだろ?」

僕はその提案に心が揺らいだ。
確かに、僕に言い寄ってくる奴らはうっとおしい。僕の知らないところで勝手に揉めているのも気持ちが悪い。それが僕のせいみたいな噂になっていることも面倒臭い。
なにより、僕は、日々平穏に過ごしたいと願っている。

「…僕に対するメリットはわかりました。学校の風紀に対するメリットもわかりました。だけど、会長に対するメリットは何ですか?」

会長は少し考える素振りをした。

「さあ?会長の責任として、って所じゃないかな?」

その言い草は、ちょっとムッとする。だけど、会長は僕にもう、文句は言わせなかった。自分に自信があるゆえか、強引なところがあるようだ。

「じゃ!そういうことで!」

会長は僕の隣で立ち上がると、クルリと周りを見回した。そして、

「…海霧」

甘い声で僕の名前を口にすると、僕の頬に両の手の平で包み、僕の顔を自分の方に向けた。そして、僕の頬に…、チュッと音を立ててキスをした!
カアッと顔面を熱くする僕を残し、会長は爽やかに笑いながら去って行った。僕らの周りから、ざわめき…いや、どよめきが沸き起こった。
そして…。
その日の放課後までには、僕と会長が付き合い始めたという噂は、全校中に広がっていた…。
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