*BL Original novel・5*

□デザイア
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凪の身体は、眼を見張る逞しさだ。
初めて出会った時も、日焼けした肌は太陽の下で輝いていたが、どこか幼く、折れてしまいそうな儚さを秘めていた。
今の凪の腕の太さは、その時の倍はあろうかと思う。太さ的に倍は大袈裟だが、重さは確実に倍は有る。
俺は、隣で寝息を立てる凪の、俺に覆い被さる重い腕を「よっこら」と息を吐きながらどかした。
朝日が昇るその前に、凪の目覚ましが鳴り、俺は凪の身体を揺さぶった。

「おい、凪、起きろ。時間だぞ」

凪は、寝ぼけ眼を微かに持ち上げた。
昨晩は、俺が本に夢中になっていたせいで、凪とは何も致していない。だから俺は、この頃溜まっていた疲労が少し回復し、目覚ましの一鳴りで目が覚めた。だけど、凪は若いくせに寝起きが悪い。いや、若さゆえに幾らでも寝られるということかもしれないが。
ふと気が付くと、枕に埋もれたまま、凪が俺をじっと見ていた。

「どした?」

「…なあ、先生…」

「ん?」

「俺、溜まり過ぎて朝からビンビンに元気なんだけど、どうしよう?」

「知るか!」

ポカリ、と一発凪の頭を叩き、俺はベッドから降りた。まだベッドの中でウダウダしている凪が、俺の背中に声をかけた。

「…なあ、先生。俺、今日、仕事の後、本土に用事があって出掛けるから」

「そうか。先月も出掛けなかったか?」

振り向き、声をかけると、何故か凪はぷいっとそっぽを向き、掛け布団を頭から被った。

「漁協の仕事させられてんだよ!あ…、泊まりに…、なるかもしれない」

「そうか」

正直、今夜も凪に迫られること無く、ゆっくり眠れる、なんて思ってしまった。少し顔に出てしまったかもしれない。凪が布団を被っていてくれてよかった。


   *


午後になって、島に定期船がやって来た。
暇な俺は、凪を見送ろうと港までやって来た。
まだ、島にやってきた乗客が船から降りてきたところのようだ。入れ替わりの乗客と積み荷を載せて出港するまで少しの時間が有る。
小さな乗客用待合室で、凪の姿を見つけた。
凪は、いつもの仕事用のヨレヨレのTシャツではなく、いつか俺が東京から土産に買ってきた小奇麗なシャツを着込んでいる。ぱっと見、爽やかなスポーツマンといったところだ。
その凪を取り囲むように、若くて可愛らしい女の子のグループの姿が見えた。都会から、この辺鄙な島に観光に来た女子大生達といったところか?女の子たちの華やかにはしゃぐ声が聞こえる。声をかけられ、凪がはにかみながら返事を返している。

「あ、私達、三日くらい居ますから!」

「そっか。じゃあ、帰って来たら泊まっている宿に魚届けるよ」

「ホントですか!あ!良かったら、その…、帰って来たら、海に一緒に行きませんか?」

「え、俺、浮き輪とか持ってないから…」

「ウフフ!浮き輪は似合わないですよね!」

楽しげに笑い合う姿に、俺は自分の胸元を擦った。ムカムカするなんて、みっともない。だけど、いつだったか、凪の爺さんが、「孫の顔が見たい」なんて言っていたことを思い出したりしてしまった。
そういえば…。
凪はこの頃、おかしくはないか?
まったく島から出ようとしなかった凪が、立て続けに島から出て行く。
部屋の外で、俺に隠れて電話をしている姿を見かけたこともある。
全て、仕事が忙しくなったから…。そう言っていた。
だけど、今朝のように、何か言いたげに俺のことをジッと見つめる回数が増えた。
俺は、変な胸騒ぎと苛立ちを同時に覚えた。
待合室の壁の時計と、出航時間を確認する。ポケットに財布が入っていることを確かめる。診療所の鍵は掛けたかどうか思い出せないが、俺は白衣を脱ぎ、ロッカーに詰め込んだ。
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