*BL Original novel・5*

□ハッピーロマンチスト
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とあるイベントでのこと。
僕は、「ファンです」と言ってくれた女の子にサインをしていた。差し出された僕の歌のCDのジャケットに、サインペンで、『MASATO』と英語の筆記体で書いた。
ちょうどその時、今日のイベントでは裏方に徹していた宮元さんが、ひょっこり僕の隣に現れた。女の子は、宮元さんの顔を見ただけで、この人が誰なのかわかったみたいだ。

「あの!サインお願いします!」

と、僕がサインをして返したCDをまた宮元さんに差し出した。宮元さんは素直にCDを受け取ると、僕の手からサインペンを奪い、僕のサインの近くに自分もサインをした。

「はい」

宮元さんがサインをしてCDを女の子に返すと、女の子は、

「ありがとうございます!マリくんのCDの曲、宮元さんも作詞作曲されてるんですよね!すごく好きです!」

と、嬉しそうにCDを抱き締めてくれた。そして、もう一度サインがされているジャケットを顔の前で眺めながら言った。

「こうして、お二人のサインが並ぶと、まるで『MIYAMOTO MASATO』って書いてあるみたい!お二人、いつもすごく、仲がいいですね!」

宮元さんは、ミヤモトマサトと読まれてしまったサインを見て、フフッと小さく笑った。そしてなぜか、急に上機嫌になったぽい。
そもそも、僕のサインは宮元さんのサインを真似して書き始めたので、宮元さんのサインと似ているんだ。


   *


イベント終了後の打ち上げで、まだ上機嫌が続く宮元さんが、舌先で転がすように、甘く囁いた言葉に、僕は赤面した。

「宮元真理(みやもとまさと)かあ…。悪くないな…」

「何言ってるんですか?!」

僕は、宮元さんの囁きが周りに聞こえてないか、キョロキョロしてしまった。打ち上げにはスタッフさんや友達も来てる。
宮元さんは、僕の顔をジロジロ見ながら、

「お前、苗字、宮元にしたら?」

なんて、言ってきた。

「いっ、嫌ですよ!結婚したと思われます」

宮元さんは、ニヤッと口の端を上げた。

「しているようなもんなんだからいいじゃねーか」

「してません!だいたい、同じ事務所に同じ苗字が被ってたらややこしいです」

思わず文句を付けてしまったけれど、ちょっとお酒が入り始めている宮元さんの機嫌は悪くならない。ホッ。

「んなこと言ったら、夫婦で同じ事務所に居る奴はどうするんだよ?」

機嫌は悪くならないけど、絡み癖は出てきてしまったようだ。

「たいてい、どっちかが旧姓のままの人が多くありませんか?やっぱ、ややこしいんですよ。だいたい、うちの事務所は僕と宮元さんの二人きりなんだから…。電話をとって『はい、ミヤモトです』なんて、どっちがどっちか…」

宮元さんは、僕の言った言葉のどこかに引っ掛かりを感じたみたいだ。ちょっと小首を傾げて考えた。

「マリ、お前、いつまで俺のことを苗字で呼ぶんだ?」

「え…」

「そもそも夫婦で苗字呼びはおかしいだろ?」

「だから、夫婦じゃないって…。あ、宮元さん、お代わり、何飲みます?」

会話の途中で宮元さんの空になったジョッキを奪ったら、プイッと横を向かれた。

「その呼び方じゃ返事しなーい」

「えー…」

出た!宮元さんの秘技!子供返り…。
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