*BL Original novel・5*

□恋じゃない?
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笹見(ささみ)がベッドの中で電話をとった。
笹見の電話が鳴ることは珍しい。いつも誰かと連絡を取るときはメールかラインだ。僕だって、笹見の電話番号なんか知らない。
だから、笹見が電話を取る姿は初めて見た。笹見は、電話を掛けて来た相手を表示された名前で確認してから電話に出た。珍しいのはそれだけじゃなくて、笹見はわざわざベッドから降りた。そして、寝たふりをしている僕をベッドに残し、そっと部屋から出て行った。
今更、笹見の浮気に目くじらを立てることもしないけれど、こんなことは初めてだったから動揺した。
僕の前でも平気で他の誰かといちゃついたり、連絡を取り合ったりをしてしまう笹見だ。それなのに、電話…?相手は誰?
いつもの、浮気とは違うような…、そんな不安に襲われた。だけど、電話の声を聞くのが怖くて、僕は布団を頭から被って、更に深く寝たふりをした。


笹見は僕が初めて身体を繋げた人だ。
笹見にとってはいつもの遊びだったみたいだけど、僕は本気になってしまった。
人と付き合うのは初めてだ。男同士だという垣根をヒョイと飛び越えてしまった自分に驚いたけれど、その恐怖と不安を封じ込めるくらい、僕はあっという間に笹見に夢中になってしまった。笹見は甘い言葉を僕にくれる。

「俺はお前の初めての男?…違うだろ?最後の男だろ?」

そんなクサいセリフを吐いても許されるほど、笹見はカッコイイ。
僕と同じ高校生ながら、大人の雰囲気を漂わせている。欧米系の血を引くクウォーターで、色素の薄い瞳と髪色。なのに日本人らしい切れ長の目、鋭い眼光、スポーツマンらしい日に焼けた肌と長身の身体を覆うゴツくない筋肉。
笹見の周りにいる人間は、みんな笹見に目を奪われる。そして、きっとみんな恋に落ちる。
問題は…、笹見がその恋、全てを受け止めてしまう度量の持ち主だ、ということだ。



学校の廊下で、僕は笹見とすれ違った。
こんないたって平凡な、笹見となんか釣り合わないような僕と付き合ってしまって恥ずかしいとか、みっともないとか、そんな感情は笹見にはない。人目があろうが、すれ違いざまに平気で僕にキスをしてくることもあった。まあ、周りのみんなは、笹見の悪ふざけで僕をからかってるだけに見えるんだろうけれど…。
だから、笹見の姿が廊下の向こうに見えた時、僕は直ぐ様身構えた。いきなりキスをされても心臓が口から飛び出さないように、心臓に手を当てて落ち着かせた。
笹見が僕に気が付いた。その切れ長の目の端に、僕の姿を捕らえたはずだ。僕は、恥ずかしくて少し俯いた。
笹見が僕の横を通り過ぎる。そして…。そのまま通り過ぎた。思わず振り向いた僕の周りで、たまたま居合わせた数人も僕と同じ様に振り返った。そして、何も言えない僕の代わりにお喋りを始めた。

「今、笹見と一緒に歩いてる奴、見た?」

「すっげー!モデルみたいな外人だな」

「ああ、俺知ってる!ほら、笹見って帰国子女じゃん?向こうの学校で友達だったらしいよ、アレ。てか、モデルとかもやってるって聞いたよ」

「じゃあ、まさか、笹見を追いかけて日本に来たとか?」

「てか、アレが笹見が言ってる『本命』なんじゃねえ?すっげー似合い!別次元だわあ」

僕は目を擦って、通り過ぎて行ってしまった二人をもう一度よく見ようとしたけれど、長い足の二人の歩幅は、僕の想像よりもずっと速いスピードでその姿をくらましてしまっていた。


その日、笹見からの連絡はなかった。
僕は、勇気が持てずに自分の方から先に入れたことのないメッセージを…、入れようとしたけれど、おかしなことを言ってしまって嫌われたくなくて、やっぱり入れられなかった…。前に、

「楽しんでるところをお前からのメッセージで萎えさせられた」

とか、言われてしまったから…。



翌日、そそくさと帰ろうとしていた下校時間の校門で、バッタリと笹見に出会ってしまった。笹見の隣には、金髪の、背の高い、映画の中から出てきたような外人さんが居た。

「あ、ちょうどいい所に。玉野、ちょうどお前、呼び出そうと思ってたんだ」

笹見からそんなことを言われ、僕はあっという間に幸せな気分になった。

「な、何?」

笹見はいつも突然、「今夜、うちの親居ないから、泊まりに来いよ」とか言うんだ。僕の心の準備なんか考えない。だけど、今日は違うことを言ってきた。

「こいつ、アランっていうんだ。玉野、お前、コイツと友達になってやってくれないか?」

「へ?」

「アランです。よろしく」

金髪のイケメンは、ニッコリ笑って、僕に握手を求める手を差し出してきた。僕は、わけがわからないままに、でも、握手の手をおずおずと握り返した。アランは綺麗な緑色の目を細めて優しげに笑った。そして、流暢な日本語で喋り始めた。

「ボク、日本のアニメ大好きなんです。日本に来たらアニメに出てくる子みたいな子と付き合いたかったんだ。タマノはまるでアニメの主人公みたいだ」

笹見はアランの隣でクスクス笑う。

「アランは美少女モノとか好きでさ。それに出てくる男の主人公みたいなのが好みなんだと。玉野、お前みたいな主人公、多いよな」

あまり美少女モノには詳しくないけれど、イメージ的には、影が薄く、優柔不断で、どこにでも居る平凡で地味な高校生…。それがある日、美少女に絡まれてしまう?!そんなところだろうか?
アランは、僕をジロジロ観察した後で、笹見の全身にも視線を流した。

「タマノは可愛いけれど、サミーはダメダメ。かっこ良すぎる」

サミーとは笹見のことだろう。笹見は綺麗なアランにかっこ良く微笑み返した。そんな二人の姿に、僕はドキンッとしてしまう。なんて…、お似合いなんだろう。

「じゃ、玉野、そういうことで。アラン、今日はうちに寄れるんだろ?」

ヒラヒラと僕に手を振ると、アランは笹見の後について行ってしまう。その二人の歩く後ろ姿が…、友達以上の関係の距離で並んでいるように見えて、僕は、クルリと回って走り出した。
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