*BL Original novel・5*

□王様のシャーベット
1ページ/3ページ

第二王子である私が王位に就くことになった。
兄である第一王子が王位継承権を捨て、城を出て行ってしまったからだ。
どうにも鈍い私は、兄が決断をするまで、兄に何が起きているのかなんて気が付かなかった。後から城の人間に聞いた話だと、城下に住んでいた修道僧と兄は恋に落ち、二人で世界の国々を見て回るんだ!と壮大な夢を抱き、城から…、いや、この国からも、ポーンと手に手を取り合い出て行ってしまったらしい。
まあ、そこで、私がこの国の王になることになったわけだが…。
立派な兄に隠れ、あまり人々から相手にされてこなかった私が王位についた途端、人々の態度が変わったのには驚いた。少々、人間不信になるくらい。
そして、結婚の申し込みなんかも次々に舞い込んできた。兄に来ていた申し込みよりは少ないらしいが。
私の顔色を伺う人々、愛想を使う人々、褒めるところがない私を必死で褒めて笑いを堪える人々、そんな奴らに、少々うんざりしていた。
飛び出していった兄の気持ちが、分かるような気がした。しかも、本当の愛を手に入れて…。羨ましい。
そういえば、私は、まだ恋をしたことがなかった。
恋とは、どんなものなんだろう…?
このまま、顔も見たことがない姫といきなり契らされてしまうのは、悲しい気もする…。
そんなストレスで、私は少々我儘になっていた。


ある日、昼食で出されたシャーベットをとても気に入ってしまった。牛乳と果汁を混ぜたものだろうか?お代わりお代わりと数度駄々をこね、「もうありません」と言われて腹を立てた。

「王の命令に逆らうのか!コックを呼べ!」

と怒鳴ってみたが、待てども待てどもコックは姿を現さない。給仕にまで舐められていることにますます腹を立て、私は憤慨したまま調理場へと赴いた。
調理場からは、楽しげな笑い声が漏れ聞こえてきた。やっぱり、私の怒りなどここへは届けられて居ないのだ。

「コ、コックはどこら!」

興奮して言葉を噛んでしまったが、威厳タップリに調理場の扉をバシンと開けた。私の顔を知っていたコックは、さすがに驚いて、何かを作っていた手を止め、私の前で直立不動の姿勢をとった。

「こ、これは王様…、何か?」

コックがおべっか笑いを浮かべて言った。私は、

「先程の昼食のシャ、シャーベット…が」

鼻息を荒くしながらコックを睨みつけながら言った。するとコックは、

「王様、シャーベットお気に召してくださったようですね。ありがとうございます」

などと、嬉しそうな顔をして頭を下げてきた。

「う、うむ…」

私は拳を握った手のやり場に困った。さらにコックは、

「あのシャーベットは、ここにいる若者が作り方を教えてくれたのですよ。材料も持ってきてくれて」

と、調理場の隅で目立たぬように立っていた若者を指し示した。

「そ、そうか…。……っっっ!!!」

私は、若者の姿を目に入れた瞬間、激しい衝撃に身体を包まれた。
その若者は、まるでシャーベットのようだった。
白く透き通るような氷の肌は、触れれば溶けてしまいそう…。
茶色の髪は、シャーベットに添えられていたビスケットのように芳しいに違いない…。
黒い瞳はベリーのよう…。
ああ、まるで、先程シャーベットを初めてパクリとやった時みたいな衝撃だ。
胸が、キュッとして、ツンと鼻が痛くなって、ブルっと身体が震えて、トロリとした甘みが身体の中に流れていく…。
ああ…。
なんということだろう…。
私は、恋に落ちてしまった!!

「な…名前は…?」

震える声で、若者の名前を問うた。

「リッシュです、王様。城下の街の近くの村に住んでいます」

「リ…ッシュ…」

ああ!口にするだけで、なんて甘味な響き!

「リッシュ…、あ、あの…、も、もっと…」

私は、指先をいじいじさせながら、しどろもどろでリッシュに話しかけた。

「シャーベットのお代わりですか?」

リッシュはニッコリ笑いながら言った。なんと!私が全部を言葉にしないでも、リッシュには伝わったのだ!こんなに私のことを察してくれる人間は、周りには居ない。

「今日持ってきた材料はみんな使っちゃったんです。また今度、お持ちしますね」

「今度なんて嫌だ!!」

私はこんな所で傍若無人な我儘さを出してしまった。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ