*BL Original novel・5*
□王様のシャーベット
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「そうは言っても、うちの牛、今日はもう、お乳出ませんから」
リッシュは、私の怒鳴り声に怯えもしなかった。そして、バカにしたのとは違う笑いを少し堪え…堪えきれなかったのか、少し表に出した。
「フフ…。うちの弟にも、風邪を引いた時とかに作ってあげるんですよ。すると、もっと食べたい!もっと食べたい!って我儘を言うんですよ」
クスクスと笑うリッシュは幸せそうだ。その笑みに触れているだけで、私まで幸せな気持ちになってくる。
「リッシュ…、頼みがある」
私は、王になって、最大の我儘を口にした。
「リッシュ、一生、私のためにシャーベットを作ってくれやしないだろうか?!」
私の顔面には血がのぼり、手の平には汗、全身には震えが走る。
「王様?!もしや、お風邪を?!大変!」
私よりも小さな身体のリッシュは、その細腕で私の倒れそうな身体を案外に逞しく支えてくれた。
「お付の人を呼んで!身体を休ませないと!」
慌てるリッシュに、私は王の威厳を捨てて言った。
「大丈夫…。ごめん、あ、あの、リッシュ…、私の部屋まで私を連れて行ってくれないか…?」
必死に私を支えて歩くリッシュに、必要以上に凭れ掛かり、腕を身体に回して触れてみたりしてしまった。
そして…。
私の部屋で、私をベッドに連れて来てくれたリッシュを…。
生まれてこの方ずっと眠らせていた私の野生の本能が…。
「愛している!リッシュ!」
無我夢中でリッシュの身体に縋り付いた。
リッシュは、少し驚いた顔をしたけれど、なんと、リッシュの方からも私の身体に抱き着いてきてくれた。そしてリッシュは、
「…なんで、僕があなたに一目惚れしたって、わかってしまわれたのですか?」
と、消え入りそうな恥ずかしそうな声で言った。
「王にわからないものなどないのだ!リッシュ!私もお前が好きだ!」
初めてのキッスは、まるで火のついたシャーベットのようだった。
睦み合い、リッシュの身体に、私の愛の証を注ぎ込んだ。
そして、リッシュが愛の証に吐き出してくれた白いお乳に似た液体を手の平に受け止め、
「これをシャーベットにして食べたい」
と言ったら、ペシリと頭を叩かれた。
「ん、もう!恥ずかしいこと…言わないで…」
ああ!
リッシュとなら…、二人で世界の国々を旅して回りたいものだ!
そして、シャーベットが大好きだ!
*
と、暖かい暖炉の前で、王様はうっとりと話して聞かせてくれた。
村に里帰りして来た兄のリッシュが風邪を引き、お城に帰るのを先延ばしにすると連絡を入れた途端、王様が僕とガイが暮らす家にやってきたのだ。
寝室では兄は寝息を立てている。
僕とガイと王様は、夕食を食べ終え、暖炉の前に座ってお喋りを楽しんでいた。
ガイは、王様の話を面白そうに聞いていたが、
「そういや、俺がお前に惚れた時のこと、話したことなかったよな?」
と、僕の頭を撫でながら言ってきた。
「おお…。人の恋の話も面白そうだ」
王様は目を輝かせた。僕は、ドキドキしながらガイを見つめた。
「俺は…、お前が生まれた時から、こいつは俺が守るって、決めてたんだよ」
「え…」
生まれた時って…、確かに、ガイは僕より歳上だし、家は近所だし、僕が生まれた時のことを知っていてもおかしくはないけれど。
「お前が生まれた時、俺、リッシュに頼み込んだんだ。俺もパルのお兄ちゃんにしてくれって。そしたらリッシュのやつ、『お兄ちゃんは僕だけ』とか譲らなくてさあ。じゃあ、俺はパルを嫁にもらう!兄弟じゃ結婚できないだろ!ヘヘン!って言ってやったさ!」
ガイはしてやったり顔をする。
「…弟だったのに?」
聞いた僕を、ガイはフフンと笑う。
「可愛かったんだもん、お前」
王様は、
「愛って素晴らしい…。この国に愛が溢れますように…」
って、うっとりと呟いた。
(おしまい)