*BL Original novel・5*

□サマー・フェスティバル
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一日中快晴という天気予報に、熱中症警報が出されている今日は、そんな夏の休日。街は賑やかに人の波が押し寄せてごった返している。
俺はその群れの真ん中で、肺活量を目一杯使ってピーッと笛を吹く。こめかみから顎にかけて、汗が筋を作って流れ落ちた。
今日は、街を上げてのサマーフェスティバルが開催されている。海沿いの公園には屋台が立ち並び、朝から腹の虫をくすぐるいい匂いを漂わせている。平和で穏やかな祭りの背景の海には、無機質な大型艦艇が立ち並ぶ。海上自衛隊の基地のある街ならではのコントラストだ。
徹夜の交番勤務明けの俺は、今日は交通整理に駆り出されていた。心配症の先輩から無理矢理に着せられた防刃ベストが地味に暑い。

「ピーッ!はーい、車が通りますよー!横断歩道渡らないで下さーい!」

俺は熱気を帯びた人の群れを背中で制しながら、不快な汗を制服の肩先で拭った。背中から浮かれた会話が聞こえた。

「今日見学させてくれる海自の船ってどれ?」

「あそこに見えるやつじゃない?でっかいねー!」

俺の周りの人の流れは、駅から海上自衛隊の基地の中へと向かって行くものだ。
なんでも、祭りに合わせて護衛艦の一般人見学会が行われているらしい。
警官の制服姿の俺は、一般人と同じようには基地内には入れない。あそこはあそこで自家警備が行われているからだ。民間と公的機関との境目を仕切る金網を何度恨めしく睨んだものか。
なにせ、俺の恋人は、あの中で働いている。しかも、もう二週間も会っていない。きっと今はあの中には居ない。こんなお祭り騒ぎから逃げ出して、遠くの海で任務についているんだろう。後で会った時に、「俺が基地の前の横断歩道の交通整理をしてやったんだからな」なんて言ってみようか?きっとクスッと笑って、「ご苦労様でした」なんて労ってくれるかな?
あー!なんだかさっきよりももっと暑くなってきてしまった!
その時、ドスンッと俺の背中に誰かが体当りしてきた。その衝撃に振り返ると、必死の形相をしたご婦人が俺に掴みかかってきた。

「お巡りさん!うちのマリーちゃんが!逃げ出しちゃったの!!」

「え?」

ご婦人は、俺の制服の両脇を掴んで俺の身体を揺さぶる。

「海に落ちたらどうしましょう?!急いで探して下さい!」

俺の制止が無くなった横断歩道は、人の流れがドッと動き始めた。

「落ち着いて下さい。迷子ですか?」

俺はご婦人をなだめながら、辺りの様子を覗った。

「ピュアクリームのミニチュアダックスよ!人見知りしない子だから、誰かに着いて行っちゃったのかも。どうしましょう!」

俺は視線を人々の足元に落とした。近くには犬の姿はない。この人の流れに沿って誰かに着いて行ってしまったのなら、目の前の基地内へ入ってしまったのかもしれない。あそこはペット同伴不可だけど。
ちょうどその時、交通整理の応援に来てくれたらしい伊勢先輩の姿が見えたので、俺は先輩に向かって手を上げた。先輩は俺に気が付き、こちらに向かって来てくれる。
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