*BL Original novel・5*

□帰る場所
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「伊勢、というわけで俺はこれからデートなんで行くわ。またな」

千堂さんは交番の警官にあっさりとした挨拶を残し、僕の方に向かって歩いてきた。

「行こうか」

ポンッと僕の肩を叩き、歩き始める。僕は千堂さんに付いて歩き始めるけれど、足は少し重い。
チラッと振り返れば、交番の警官は鳴り出した電話に慌てて、再び交番の中に戻って行くところだった。興味津々な目で僕らの行方を追ってもらっても困るから、ホッとした。

「今の、同期のやつでね。あ、ほら、こないだ、寿司屋の前で事故があっただろ?あの時来たやつだよ」

「……そうですか」

自分の口から出た言葉が自分でもわかるくらいに暗い。千堂さんが心配気な顔をして、僕の顔を覗き込むほどだ。

「どうしたの?」

千堂さんが聞いてくる。

「……千堂さん、彼女いるんですか?」

聞いてしまってから、千堂さんの表情を覗う。切れ長の目をパチクリさせて驚いている。

「伊勢の言ってた冗談、本気にしたの?」

千堂さんの声は、いつも通りの優しさだけど、なんか……ちょっとムッときてしまうのは、僕の勝手な虫の居所のせい。

「じょ、冗談かどうかなんて、僕にはわからないじゃないですか?!」

荒らげてしまった僕の声に、千堂さんの表情が変わる。少し怖いくらいな真剣な表情に。

「……和喜」

「だ、だいたい!僕は千堂さんのこと、全然知らないし!忙しいって言うのも、会えないのも、僕のことなんて忘れてしまっているかもしれないしって!千堂さんに、そ、その、彼女がいたっておかしくないし!」

いい子に我慢していたタガが外れてしまうと、みっともないことばかり口にし出した。

「和喜」

「千堂さんだって、僕のことなんか全然知らないじゃないですか?!」

「和喜」

千堂さんに何度目かの名前を呼ばれ、僕は一度口をつぐんだ。

「俺はね、和喜。会えない間に、和喜が俺のことを忘れてしまってもいいと思っていたよ」

千堂さんの言葉に、ガンッと頭を殴られたようなショックを受けた。

「わ……忘れて欲しかったんですか?」

「俺は、それでも仕方がないと思っていた。俺の知らないところで、和喜に恋人ができたとしても、和喜が幸せなら……」

「千堂さんにとって僕は何なんですか!?もういいです!!」

僕は、クルリと体の向きを変え、今来た道を引き返し始めた。

「和喜!どこに行くの!?」

千堂さんが少し離れた場所から声をかけてくる。

「帰ります!!さようなら!」

再び交番の前を通ると、交番の中から、さっきの警官が僕を見つけて、「よっ」なんて、親しげに片手を上げてくる。きっと、この千堂さんの同期さんは良い人なんだろうな。危うく僕の中で悪者になるところだった。それもみんな、千堂さんのせい。

「あれ?千堂、どしたの?」

僕の後ろから声が聞こえる。

「恋人を追いかけてるんだよ」

千堂さんが答える声も聞こえる。そして、背中に感じる視線。

「あ、あ…、そう。お幸せに…」

なんて、同期さんの声が聞こえる。苛立ちに恥ずかしさがプラスされて、ますます頭に血が上る。
さっき降り立ったばかりの駅が見えてきた。僕は財布を取り出し改札を通り抜ける。ちらりと振り返れば、千堂さんも改札を抜けて追いかけてくる。
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