*BL Original novel・5*
□Marry me
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「木月真理(きづきまさと)の、マリー・ミー」
僕は緊張しながら、マイクに向かって、気取った声で、初冠ラジオ番組のタイトルをコールした。
するとすかさず、僕のアルバムの中の曲のサビ部分が流れ始めた。そして、ガラスの向こうから出された合図に合わせて、僕はまた口を開いた。
「こんばんは。木月真理です。初めましての方も、いつもお世話になっております、の方も、どうぞ宜しくお願いします。今夜は、『マリー・ミー』記念すべき第一回ということで(ここで、パフパフやらパチパチやらの効果音が入る)、素敵なゲストもお迎えしております。どうぞ、最後までお付き合い下さいませ」
ここでまず、ゲストを呼ぶ前に、短めのフリートークだ。話す内容は紙に書いてきてある。勿論内容はディレクターさんにオッケーを貰ってある。
「まずは、この照れくさいタイトルの言い訳からさせて下さい。マリーミー、つまり僕と結婚して下さいって言うプロポーズの言葉です。あ、ちなみに本当はマリーの「マ」の発音は「マ」と「メ」の間っぽい「メァ」とかいう発音らしいんですが、英語は苦手なんで、ここは「マサト」の「マ」!でお願いします」
うー。もっと砕けたしゃべり方のほうがいいのかな?まだ緊張が治まらない。
「えーと、ご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、えーと、僕のアダ名というかニックネームというのが「マリ」でして、そこから、うちの事務所の社長がこのタイトルを考えてくれました。「マリ」はわかるけど、「ミー」はどこから来たんだ?という質問は良い質問だと思います。実は、そのうちの社長の名前の最初の一文字が「ミ」なんですよね……。自己主張の激しい人なので、その辺りからこのタイトルを付けたんじゃないかと……、て、あっ!本人が聞いたら怒るかな?えっと、あの、めちゃくちゃ尊敬しております!宮元総さん、聴いてますかー?ありがとうございます」
ここで一曲。
「ここで、僕のファーストアルバムより一曲聞いて下さい。タイトルは『voice』」
曲が流れ始めると、出番を待っていたゲストの方がスタジオに入ってきた。入ってくるなり不機嫌そうで、何やら心配になってしまう。
「岩井さん、どうぞよろしくお願いします」
「ん」
僕の向かい側正面の席に座ったゲストの岩井さんは、口をへの字に曲げて、機嫌が悪そうだ。大丈夫かな?
「岩井さん、何か有りました?」
思わず尋ねると、
「別に」
と、唇を尖らせて拗ねてるような顔を見せた。岩井さんは、僕より歳上だけど、こういう表情をすると子供っぽく見える時がある。そして、そういう表情をさせる原因を僕は知っている。
「あの、……住吉くんと何か有りました?」
「なっ!なんでいきなりあいつの名前出すんだよ?!はあ?もう……」
あ、曲が終わる。スタジオのマイクのスイッチが入ってしまう。
「木月のバカー!」
曲終わりの一発目は、岩井さんのコールから入ってしまった。岩井さんはわざとなのか、ちょっと横を向いて、チラッと舌を出した。
僕は、冷や汗をかきながら、どうにかフォローに入る。
「ご、ご紹介が遅れました!今、僕に愛の告白をしてくださった方は、先輩の岩井悠也さんです!」
「こんばんは。岩井悠也です。木月くんとはずっとナカヨクサセテイタダイテおります」
棒読み挨拶をかましてくる岩井さんに、
「ちょ、ちょっと!それじゃあ仲良くないみたいじゃないですか!」
と、思わず突っ込みを入れる。すると、岩井さんの仏頂面がみるみる崩れた。そして、明るい笑い声をスタジオに響かせた。
「アハハハ!だって、木月、緊張して鬼みたいな顔してるんだもん。怖くってさ」
岩井さんに言われて、僕は両の頬を両手で包んだ。
「え?ほんとですか?って、ずっと心臓がバクバクいってるんですけどね」
「その音、マイクに拾われてるよ?」
「え?!ホントですか?!」
「うるさくて僕の声が聞こえなーい」
最初のゲストが岩井さんでよかった。僕の緊張がほぐれていく。
「岩井さんとは何度か一緒にお芝居をやらせていただいてるんですよね」
「木月と前は事務所一緒だったからね。お前ら勝手に事務所をやめて新しい事務所を作っちゃって……」
「ワーワー!そ、そこら辺のことは今ここでは置いといて下さい」
「ベー」
岩井さんはマイクというより僕に向かって舌を出して見せた。
「あ、と、ところで、岩井さん、さっきまでちょっと不機嫌じゃなかったですか?」
ちょっと仕返しとばかりに岩井さんに言ってみた。
「ん……、朝、出かけにさ、事件が起きて……」
岩井さんが深刻そうな表情で言う。
「どうしたんですか?!」
「僕のお気に入りのパンツが見当たらなくて」
「パンツですか?!」
「犯人はすぐにわかったんだけど」
「盗まれたんですか?」
「同居人に穿かれてた」
「プッ!」