*BL Original novel・3*

□ボイスん。アゲイン
2ページ/71ページ

『ボイスん。アゲイン』




「ふっ、ん…っ、あぁ…」

「マリ…、愛してる…っ」

身体の中で放たれた熱に、全身が震えた。僕を支配していた楔は埋め込まれたまま、ようやく動きを止めた。
エアコンの効いた部屋で、薄っすらと汗をかいた身体は、俯せでシーツに縫い止められてる。背中に、そっと重なる重さを感じた。まだ荒い息遣いの合間に、耳元で熱い息が囁いた。

「…別れよう」

一瞬、何かの台詞かと思った。理解できずに固まる僕の背中から、宮元さんはそっと身体を離した。グズリと引き抜かれる感触に「んん…っ」と声を堪えた。
僕は恐る恐る首を捻り、宮元さんを振り返った。

「あーあ、マリのせいでちっとも仕事がはかどらねえよ」

まだ乱れている呼吸を整えようとしている僕の横に、宮元さんはゴロリと寝転がった。
その呑気な態度に、今の言葉は聞き間違いか?と思ってしまう。

「今、なんて…?」

「あー?マリのせいだって言ったが?」

薄暗い部屋の中で、デスクの上に置かれた開きっぱなしのノートパソコンのモニターが光っている。書き始めた脚本の原稿が進まないことを僕のせいにされても困る。

「その前に言ったやつです」

「ああ。お前と別れようと思ってな」

あっさりと繰り返された言葉に瞬きを繰り返した。

「…それって…、ホンを書くのに僕が邪魔だっていう意味ですか?」

だけど、勝手過ぎる言い分に腹も立つ。僕は身体を起こし、宮元さんを睨みつけた。震えそうになった拳は強く握った。

「それもあるし、それだけじゃねえかもしれねえし」

にやりと笑う宮元さんに、はっきりと怒りが湧いてきた。

「いいねえ。そんな表情も出来るんだな、お前は。生意気なのか喘いでいるかの顔しか最近は見てなかったからなあ」

からかっているのか?質の悪い冗談過ぎる。

「俺が好きか?マリ」

ニヤニヤした顔で聞かれても、素直に返事なんて出来やしない。黙って唇を噛み締め、顔をそらした。
宮元さんは、ボリボリと頭を掻きながらベッドから降りた。鍛え上げられた裸体を僕の前に晒し、自信有り気に顎をしゃくった。

「お前は俺の言うとおりにすればいい」

ぽんっと宮元さんが僕の頭に手を置いた。

「俺が別れるっつったら、はいって素直に聞いとけばいいんだよ」

僕はその手を頭から振り払った。

「何がなんだかまったくわかりません!」

今、ほんの数分前まで甘い声で「愛してる」などと囁いたのは一体何だったんだ?!

「それでもお前は俺を信じてるんだよな」

宮元さんの手が僕の顎に掛かった。くいっと持ち上げられ、上を向かされた顔に宮元さんの顔が近付いてきた。
僕の振りかざした手は、パシンッ!と宮元さんの頬を打った。

「ふざけるのもいい加減にしてください!」

「…っ、てぇなあ…。まあ、いい。…明日、俺はこの部屋を出て行く。ここはしばらくお前の好きに使ってていい」

僕を一人残し、宮元さんは頬を押さえながら背中を向け、部屋を出て行った。
混乱する頭と、火照りが引いて、急に寒くなった身体をベッドの上で丸めた。
きっといつもの意地悪だ…。
そう思い、ギュッと目を閉じた。いつもなら甘い気だるさに変わる疲れが、ただ身体に重く圧しかかる。だけどありがたい事に…、すぐに睡魔に襲われた。




そして、翌朝、目が覚めると家の中から宮元さんの姿が消えていた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ