*BL Original novel・3*

□水の泡
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   *

以前、武市先生の部屋を覗き見てしまったことがあった。
行灯の薄暗い明かりの元で、以蔵が獣の姿で後ろから犯されていた。

「こんな幽閉された不自由な暮らしじゃ、女も買いに行けん!以蔵!おまんでもこうして女の代わりになれるんじゃ!嬉しいじゃか?」

言葉の意味が聞こえているだろうに、以蔵は恍惚とした表情をしていた。

「声は上げるなよ、興醒めする。ああ…、顔だけはこちらに見せろ。身体はどうにもならんが、お前は顔だけは女のように可愛かのお…」

俺は、襖の、その微かな隙間の向こうで、柄に掛けた手をぎゅっと握り締めていた。しかし、一瞬、以蔵と目が合った。人の気配など、容易に察する以蔵だ。俺の…殺気を感じたのだろう。
そのとき俺は、初めて以蔵の微笑を見た。敬愛してやまない先生に犬のように犯されているというのに、以蔵は小さく微笑んだ。
その笑顔は…、俺の秘めていた欲望に火をつけてしまった。あの顔が見たい。もう一度見たい。俺が…、俺の腕の中であの顔を…。



だが、何度抱いても、以蔵は宙を見つめるように、天井に視線を向けるばかり…。
以蔵の心の中には、武市先生以外に誰も入り込めない。敵味方もない。武市先生とそれ以外の人間だ。
何度も「俺を見てくれ」と言いかけて飲み込んだ。
そんなもの、言葉じゃ以蔵に伝わらないのはわかっている。


   *


下された密命に赴いた。
以蔵の細い首筋に疲れが見えた。それは俺のせいだ。
珍しく、敵の刃に以蔵の反応が遅れた。俺はとっさに以蔵の身体をふっ飛ばした。
……そして、俺の腹に、ズブリと熱い刃が突き刺さった。
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