*BL Original novel・3*
□君の猫目に恋してる
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シャーッ!と全身の毛を逆立てた。尻尾もふっとくなったのをピンッとおっ立てた。
「おお?やるってぇのか?おちびちゃんよぉ」
向こうは三匹。ガリ、デブ、ブチ。俺は三毛猫一匹。
ジリジリ近付いて来るそいつらに、ガアーッ!と口を大きく開いて牙を見せてやるけれど、ニヤニヤ笑うだけで効きやしねえ!くそっ!
少しだけ後退るけれど、後ろはさっき俺が落ちてしまった高い塀だ。後ろ向きにはジャンプ出来そうもない。こうなりゃやるしかない!俺は前足に力を込めた。
そのとき、やけに落ち着いた声が響いた。
「…ここが誰の縄張りか、わかっているんだろうな?」
すると、俺の目の前の三匹の毛が針金みたいに逆立った。ついでに手足も尻尾もピーン!と伸ばしてマンガみたいになった。
「失せろ」
その低い声がそう言った途端、三匹はピョーンと塀の上に飛び上がり、瞬く間に消えて行った。尻尾を巻いて逃げ出すとはこういう事を言うんだな。ざまあみろ!
だが事態は良くはなっていなかった。更に最悪。
ゴミ箱の影からのっさりと、一匹の猫影が現れた。
「…失せろ、と言ったのが聞こえなかったのか?」
凄みのある低音ボイス、月明かりに浮かび上がるブルーグレーと黒の縞のサバトラ模様。俺よりも一回りも大きな体。そして何より、顔面に斜めに走る傷跡。よく見れば全身傷跡だらけだ。
「な、なんだよ!助けてくれたんじゃなかったのかよ?!」
そいつは俺のことをジロジロッと見てから、ふんっ、と鼻を鳴らした。
「飼い猫か。俺達野良猫には、お前みたいなやつを助ける理由も義理もない。帰れ」
そいつはくるりと俺に尻尾を向けた。どこからか、ワオーン!なんて犬の遠吠えが聞こえて少しビビった。
「待てよ!そ、その!ちょっとそこらまで一緒に行かねえか?」
そいつは足を止め、チラリと俺を振り返った。
「ちっ、…迷子か…」
今明らかに舌打ちされたが、わかってくれれば話は早い。そう、実は迷子だ。
俺はそいつにダッシュで駆け寄った。首のリボンの鈴がチリンチリンと鳴った。
「俺の名前はキスってんだ。飼い主はユーヤ…」
話しかけてるのにそいつはテクテクと歩き出した。俺も慌てて歩調を合わせる。
「なあ!お前の名前は?」
「名前など…。ただ、この辺りの奴らは俺のことを『ボス』と呼んでいる」
「ボスか!よろしくな!」
裏路地から車の多く行き来する大通りへと出た。眩しさに目が細くなる。
「家はどの辺りだ?送って行く」
「それが…全然わからねえ!俺…、去勢されにいく途中でカゴから逃げ出して…」
ボスの表情が少し曇った気がした。
「それに俺、腹減っちゃったよ!んでもって、眠い…」
グーと腹の虫を鳴らしながら大きなあくびをした。
ボスは呆れ顔で俺を見たが、少し俯いたかと思うと、くくっくと、噛み締めるような笑い声を漏らした。
「飼い猫の口に合うような食いもんはねえが…、雨風はしのげる場所に連れて行ってやる」
俺が、意外に話が通じそうなボスに連れられて行った先は、ここらの野良猫のチームメンバーが集まる隠れ家だった。
そして、ボスはそこのボスだった。