*BL Original novel・3*
□紅い月
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「ちょいと遊んでおいきよ!」
格子越しにかかる声など、まるで聞こえないというように真理は足早に先を急ぐ。どうも、このようないかがわしい界隈の雰囲気は苦手だ。それに比べ、連れの宮元の足取りは先程から浮かれている。
ふと振り向くと、宮元が一軒の女郎屋の前で立ち止まって居るのが見えた。
「何をしているんですか?!」
慌てて来た道を戻り、だらしなくにやけている宮元の袖を引いた。
「ちょっと昔馴染みを見つけてなあ」
格子の中からは、おしろいを塗りたくった女郎がしなを作って宮元に擦り寄っている。宮元も格子の隙間から指を差し入れ、女の体をくすぐっては悦ばせている。
「もう財布の中身は埃しか入っていませんよ。今晩の宿代だって一人分あるかどうか…」
ことさら表情を固くした真理に対して、宮元はふわあ…と大きなあくびを見せた。
「だったらちょうどいいじゃねえか。おめぇ一人でそこらの宿屋に泊まってろよ。俺はもう眠くてしょうがねえから、ここで寝かせてもらうわ」
真理は女を見、そして宮元を見て、少しだけその頬を染めた。
「んー?おめぇもこっちのほうがいいのか?」
宮元に言われ、真理は俯きがちになる。
「ははぁん、おめぇ…」
宮元は真理の腕を引き寄せ、その耳元で囁いた。
「…妬いてんのか?」
とたんに顔一面朱に染めた真理は、唇を噛み締め、きつく宮元を睨みつけた。
「誰が!もう、知りません!!」
クルリと背を向け歩き出した真理の背中に、宮元は忍び笑いを漏らす。その後で、
「名案が浮かんだ。…おい、ちょっと頼みがあるんだが…」
指をクイッと曲げ、ちょいちょいと馴染みだという女郎を近くへ呼んだ。
*
「真理!ちょっと待てよ!」
一人宿屋に入ろうとしていた真理の腕を駆けてきた宮元が掴んだ。
「んなシケた宿屋に入らないですむ方法があるんだが…」
宮元は手にしてきた女物の赤い着物を掲げる。わからない、と真理は小首を傾げるが、
「お前、こいつを着ろ。得意だろ?そういうのは」
「はあ?!」
確かに、一度女装をさせられた姿を宮元に見られたことはあるが、あの時、ただ一度のものだ。
「おめぇがそれを着てそこらの暗がりから男を誘うんだ」
「へ?」
「そんでバカな野郎がお前に引っかかったところで、…俺様が登場するって寸法よ」
「それって美人局じゃないですか?!」
得意げな顔でニヤリと笑う宮元に、本気かと真理は瞬きを繰り返した。