*BL Original novel・3*

□紅い月
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「やりませんよ!なんで僕がそんなことを…」

「この着物貰うのによ、全財産使い果たしちまったし…」

「ええ?!あ、あれ?財布、財布がない!」

真理はうろたえながら懐に手を差し入れるが、先程までしまってあった財布がない。宮元がわざとらしくすまなそうに差し出す財布を引ったくるように奪い返し、真理は深い溜息を吐いた。
宮元は真理の肩を抱き寄せ、耳元で囁く。

「頼むよ。俺ぁ、初めてお前に会ったときのあの可愛らしさが忘れられねえんだよ。ちょっと着てみせてくれりゃぁ、…今晩の俺様は絶倫だぜ?」

こうと決めたら己の意思を変えた試しがない宮元だ。まだ短い間しか共に過ごしていないが、十分過ぎるほど宮元の性格は思い知らされてきた。

「…僕になんか、引っかかるバカはいませんよ…」

とりあえずこなして、失敗すれば気が済むだろう…。
ご丁寧に紅まで用意してきた宮元の手を借りて、真理は夜の帳に身を隠した。


   *

…行け…
と、近くの建物の影に身を隠す宮元が顎で促す。真理は曖昧に頷きながら、柳の木の下から月明かりの下へと数歩身体を現せた。

「お、お、おに…ぃさ…」

「鬼だとぉ?!」

酔っ払ったガラの悪そうな町人風情は、真理へと身を近付ける。

「あ、いえ…、あの…、ぼ…(じゃない)…あ…あちしと…あ、あ、遊ば…」

チラリと見やった宮元は、片手で額を押え、大袈裟に天を仰いでいる。
……だ、だから無理だって言ったじゃないか!僕に芝居など打てるはずがない!
愛想笑いを浮かべたまま、後退りする真理の細い手首を…、その男が掴んだ。

「よく見りゃあ、別嬪さんだねえ。幾らだ?」

困りながらまた宮元を見れば、手の平とその指を大きく全開にして見せている。

「ご…五両…」

再び宮元を見れば、親指を地面に向け何度も指さしているがその意味がわからない。

「いいよぉ、幾らでも」

男は急に正気に戻ったように辺りをキョロキョロと見渡した。その指がパチリと鳴らされる。

「こーんなとこで薄汚い着物着て商売するよりも、楽しい場所に連れて行ってやるよ。…なかなかの上玉だ。傷つけるな」

途端に真理の回りを数人の男たちが取り囲んだ。

「お、降ろせ!…やめ…、うっ」

暴れる真理の鳩尾に、男の拳が叩き込まれた。足元から崩れ落ちる真理を男のうちの一人が軽々と肩へと担ぎ上げた。とっさに駆け寄ろうとした宮元だが、ピルルルルッ、と、どこからか鳴り響いた捕物の笛の音に一瞬たじろいだ。
その隙に…、霧のように男たち全てが消えた。
真理も…。



   *


真理は、バシャリと顔面に向かって浴びせられた水に目を覚ました。

「…うっ、う…っ!」

口に巻かれた猿轡で言葉が発せられない。手首は背中側に一纏めに縛られ、足首も同じように一つに縛り上げられている。冷たく濡れた床に転がされた身体のまま、微かな灯りが灯された空間に目を凝らした。どうやら、どこかの蔵の中のようだ。数人の男たちが真理を取り囲むように見下ろしている。

「目ェ覚ましたかい?別嬪さんよぉ」

「ったくよお、陰間なら陰間って先に言えよなあ。お陰で親分が…、大喜びしちまったじゃねえか!」

ゲラゲラと男たちが笑う。

「しっかし親分も悪趣味だよなあ。嫌がってんのを無理矢理じゃなきゃおっ勃たねえってんだからよお」

「毎度調達と処分をする俺達の身にもなって欲しいぜ」

「手間賃がおこぼれだけなんてよお?」

真理に伸ばされた手が、口を塞ぐ猿轡を外した。
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