*BL Original novel・3*

□初恋カクテル
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パソコンに向かいながらも、モニターの右下の時計を気にする。もう、退社してもいい時間だ。が、まだ早い。今日のやるべきことは全て終わらせたが、俺がこんな時間にそそくさと帰宅の準備を始めたら回りは驚くだろう。
仕事の鬼…、なつもりはなかったけれど、そういう目で見られている自覚はある。そして、このまま一生を仕事に没頭して過ごすものだと思っている…、そんな三十路…。
デスクの上に置いていた携帯がブルブルッと震えた。しめた!何か仕事が入ったか?!と思ったが、マメなあいつからの『今夜の約束』の確認のメールだった。返事を返す気にもなれずに放置した。

「……かん…、…神崎!」

すぐそばで名前を呼ばれてハッとなって顔を上げた。

「俺の台本よこせ」

目の前には、居るだけで威圧感を発するような、大男が立っていた。反応の鈍い俺を見て、

「どうした?」

宮元が怪訝な顔をして俺の顔を覗き込んだ。別に俺の体調でも気遣って発した言葉ではないが、なんていうんだろうか…。本人にとってはあくび程度の発声だとしても、聞く者にとっては、変な気にさせる。俺の普段の仕事用の防御幕が揺らいでいたんだろう。宮元の目の前で、ぽわっと顔面に血を上らせてしまった。

「おい…、大丈夫か?」

俺はずり落ちそうになっていた眼鏡を中指でくいっと押し上げた。エロボイスバリア・スイッチオン。なんて、バカなことを考えていたら、いいことを思いついた。

「あ、そうだ、宮元。この後時間取れないか?ちょっと…頼みがあるんだが」

「今から?仕事か?」

「あ、いや、その、…プライベートなことで…」

とか言うと、宮元は意外そうな顔で驚いてみせ、小指なんか俺に向かって立ててみせる。オヤジか、お前は。

「あ、まあ、ん…、そんな感じかな…」

「へえ…。神崎がねえ…。堅物そうな顔してやることやってんだなお前も」

だらしがない顔してだらしがないことばかりしている誰かさんの尻拭いをしているのは誰だかわかってますか!と言いたいが、こらえてやろう。

「あ、悪ぃ。今日はマリと飯食いに行くつもりだったんだわ。まだ声かけちゃいねえが…、あいつ仕事終わったかな?」

つもり、であって、約束しているわけじゃ無いだろうに。マリも苦労してるだろうな。

「あ…、宮元、今、ボーイズラブのドラマのキャスティングきてるんだけど、お前やってくれないかな?…相手は…マリを考えてるんだけど…」

「…内容は?」

「超ハード20禁」

「神崎、相談てなんだ?聞いてやる」

宮元はくいっと事務所のドアを親指で指した。マリ、すまん。
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