*BL Original novel・3*

□初恋カクテル
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「今夜は二人で飲んでいるので、どなたかは知りませんが遠慮してもらえませんかね?」

宮元が丁寧な口調で喋ると、なぜだかガラの悪い職業の人に聞こえるのはなぜだろう…。アニメの王子様の画像でも被さっていれば王子様に聞こえるかもしれないが、目の前にご本人がいるからそう聞こえるんだろうな…、って、いかん、仕事病だ。分析している場合じゃない。

「神崎、そちらは?」

動じない澄ました顔で、大沢は俺の隣に座った。

「あ、えっと、こっちはうちの事務所の…」

「ああ、事務所の声優さん?へえ、聞いたことあるような声かも」

宮元の口元がピクリと動いた気がした。いかん。何かが気に入らなかったみたいだ。暴れなきゃいいが…。

「どうしてその声優がここにいるの?」

ニコヤカな顔で大沢が聞いてくる。

「恋人同士がいつどこで飲もうが他人には関係ねえだろ」

ボソリと呟くように言う宮元の口調はすでにドスがきいている。

「お、大沢。そ、そういうわけだから…」

「何が?あ、すいません、ジントニックを…。えっと、なに?」

こいつの耳は穴が開いているのか…。キョトンとした顔を俺に見せてくる。

「…早く『もうつきまとうな』って言えよ」

右横から宮元が俺の脇腹を突く。さすが宮元、大沢の図太さをいち早く察したらしい。

「大沢、あのな…」

「ま、いいか。俺さ、神崎にちゃんと面と向かって言いたいことがあったんだ。それを聞いてくれるなら、誰がいようと構わないかな」

大沢は目の前に置かれたジントニックに口をつけてひと息つく。

「…ふう。…あのさ!昔のことは、…完全に俺が悪かったので、許して下さい!もう、十年以上、反省し続けているので、どうか許して下さい」

ゴツン、と音を立てて、大沢はカウンターの板の上に頭をぶつけながら突っ伏した。

「お、おい…。みっともない…」

俺は大沢の肩を揺する。

「何があったか聞いてもいいか?」

すっかり演技をするのをやめた顔の宮元が口を挟んできた。こいつ、こんな好奇心があったほうだったか?

「…実はさ」

むくっと大沢が顔を上げた。俺を挟んで、でかい男が二人、カウンターに身を乗り出して会話をし出した。

「俺と神崎は高校の同級生でさ」

「へー…」

「お互い好きだったと思うんだよねぇ。甘酸っぱい初恋ってやつ?」

「…ほー」

「だけどさ、ちょっとこう…意思疎通がズレたっつうか、若さ故のコミュニケーション不足というか…」

「…あぁ…」

「小さな誤解で喧嘩別れしてしまった後に、遠距離突入というドラマちっくな展開で…」

「かっ!勝手なことを言うなよ!」

思わず声を荒立ててしまい、慌てて身体を小さくした。両脇から視線が俺に向けられる。俺はあくまで冷静を装い、あくまで説明口調で言う。

「第一に、俺は大沢のことなんか何とも思っていなかった。第二に、大沢には彼女がいたんだろ?第三に、俺はすっかりお前のことなんか忘れていた!」
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