*BL Original novel・3*

□ぼいすん。ぷりん
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風呂上りに濡れた頭をタオルで拭きながら冷蔵庫を開けた。コップに牛乳を注ぐと腰に手を当てて一気に飲み干した。ぷはっ!天国!そして、もう一度冷蔵庫を覗き込み、とっておきの極楽をも味わおうと手を伸ばし…。

「…ない」

僕は青ざめながら、キッチンからリビングに居る宮元さんに声をかけた。

「宮元さーん!冷蔵庫にしまっておいたプリン知りません?」

「知らん」

返された即答を怪訝に思いながらリビングを覗くと、宮元さんが座るソファーの前のテーブルにはコロンと転がった小さなガラスの容器がふたつ。その横に転がっている銀のスプーンがひとつ。

「あ〜〜!!僕がもらってきたプリン!ふたつとも食べちゃったんですか?!」

プリンをつまみにでもしたのか、宮元さんは缶ビールをぐびっと飲み干しながら僕に向かって、

「おい、おかわり」

と僕に向かってビールを催促した。僕はもう一度冷蔵庫を開け、冷えた缶ビールを引っ掴むと、リビングへと向かった。ぼふっと宮元さんの横に座る。

「おう、サンキュ…」

宮元さんが僕の手から缶ビールを取ろうとするので、僕はぴょいっとその手をかわしてみせた。

「僕、そのプリン楽しみにしてたんですよね」

「…知るか」

宮元さんは難なく僕の手から缶ビールを奪い取った。

「そのプリンは事務所の人がくれたんですよ!なんか、すっごく人気でなかなか手に入らないやつだって…」

「ああ、美味かった」

しれっと言う宮元さんを睨みつける。

「何で2個あったと思ってるんですか!僕と、宮元さんの分でしょ?!どうして、どうしてふたつとも食べちゃうんですかあ!」

僕は宮元さんの胸元をぽかぽかと叩いた。

「…うるせーなあ、名前でも書いてあったのかよ?」

「ダー!どこの小学生の屁理屈ですか?!ああん、もう!ちょっとは他人のことも考えたらどうですか?!だいたい!いつもそうなんですよ、あなたは!」

宮元さんは一気に飲み干した缶ビールをグシャリと握り潰した。こわ…。

「何でプリンのひとつやふたつ食べたからってお前に説教されなきゃなんねえんだ?」

ギロリ、と凄みのきいた目付きで身を乗り出し至近距離から僕のことを睨んでくる。お、思わず身を引きそうになるけれど、負けるな、僕。僕もぐいっと胸を張って顔を寄せた。

「プ…プリンのことだけじゃないから言ってるんです!…『あ、プリンだ!ラッキー!2個あるってことは、ひとつはマリのかな?あ、お腹すいちゃったな、じゃあ、一個、先に食べさせてもらっちゃお』とかって、人を思いやる気持ちはないのかと、言ってるんです!」

「ああん?じゃあ…『わあ!ミヤモトさんてプリン好物だったんだ?わあ!じゃあ、僕の分も食べて下さい!わあ!ミヤモトさんが幸せなら僕も幸せです』とかくらい言ってみろよ」

「僕がそんな可愛いこと言うはずがないでしょう?!」

「俺だって、いちいち家の中で気を使いながら過ごすのは勘弁だね!」

僕より大人なくせに(おっさんとも言う)ぷいっと、僕より先に宮元さんが顔を背けた。カチン、ときた僕も、負けずに盛大にそっぽを向いてやった。狭いソファーの上で身体を寄せ合いながら顎を尖らせ壁を睨む。
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