*BL Original novel・3*

□君色褪せる事なかれ
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「そ…、そんなとこは…、見られてないよ…」

史織は僕の素肌を目で指先で、傷や痣がないか確認する。

「瑪来は…、綺麗だ。大丈夫だよ、どこも汚れてない」

史織は僕の顔を両手で包み、優しく微笑んだ。その優しい表情に、胸がドキリとする。だけど、史織の表情はすぐに険しいものに変わる。

「中…、開いて見せてみろよ。あいつが触ったところ、全部調べてやる」

史織の手が、僕の閉じていた身体の縁に触れる。僕は思わず身体に力を入れてしまった。僕の間に、史織の手が挟まった。

「瑪来、それじゃあ、開けない」

中で史織がもぞもぞ動くのがくすぐったい。

「だ、だって…、見られるの…、恥ずかしい…」

「こんなに暗いんだから、何が書いてあるのかなんて読めないよ。怪我が無いか調べるだけだから」

史織が僕の緊張を解くように、僕の膝にキスをした。僕は恥ずかしさで両手で自分の顔を覆った。史織の手が、ゆっくりと僕の身体を開いていった。

「…すべすべだな。ほんとに俺と同じ血が流れてんのかな?瑪来の肌って、すっげえ、綺麗だな」

僕は、自分の肌よりも少しガサついた頼もしい史織の手のほうが好きだ。折れることを知らないように、頼もしくピンッと張り詰めた身体の史織。

「あんまり…見ちゃ…嫌だよ…」

「大丈夫だよ。瑪来の中、難しくって、俺には全然わからないから…」

そう言いながら、また一枚、また一枚と、僕の身体を史織は捲っていく。どんどん深くを覗いて見られるから、恥ずかしさで呼吸が難しくなる。

史織は昔から、僕の身体に触れることは多かった。まだ幼い頃、その行為の意味もわからないくせに、大人の真似をして、その行為だけを真似た。
あれはいつの時だったか…。史織が僕の間に挟まって、慌てて身体を引き抜いた時に、お互いの身体が小さく震えた。初めて覚えた感覚だった…。
こんなコトしちゃいけないとはわかっている。だけど、史織の冷たい指先は気持ちが良くって…。

「…あっ!」

突然、史織が声を上げた。

「あいつ!瑪来の端っこ、折りやがった!くそっ!おい!自分で気が付いてなかったのかよ?!瑪来!」

怒りの矛先が突然僕に向き、僕はただ、オロオロと答えた。

「い…痛いなとは…思ったけど…。そ…、そんな、酷いことをするとは思っていなくて…」

「あいつ!瑪来のことを何だと思ってやがる!おい!瑪来!あいつはこれからもっと酷いことをする気だぞ!これはな!まだ、こっから先を楽しませてもらうぜ!今日はここまでにしてやる、っていう意思表示みたいなもんだからな!」

「そんなこと…」

「あいつ、俺が後からお前のこと調べるのわかっていてわざとやったのかもしれない!くそっ!瑪来に、途中の印を付けていいのは俺だけなのに!くそっ!」

史織の怒りはどんどん膨らんでいく。

「だいたい!瑪来がいつもそんな簡単にあいつに身体を開くからいけないんだ!」

史織に怒鳴られ、引っ込んでいた涙が、一気に溢れ出した。

「ひ、ひどいよ!僕だって好きで見られているわけじゃないよ!そんなの史織だって知ってるじゃないか!僕だって、もう少し我慢したら、最後までいったら解放してあげるって…、だから、我慢して…我慢して……」

「瑪来!」

史織が僕の身体を折れるくらいに抱き締めてきた。少し、肌がクシャッといった。

「ごめんな。俺がもっと早く大人になれば!瑪来を攫って逃げるのに!」

「…うん。大人になったら、どこかで二人で暮らそうよ」

「そしたら、俺!瑪来のこと、朝から晩まで、隅から隅まで眺め回してやる!瑪来の全てを完全に暗記しちゃうくらいにさ!」

機嫌をなおしてきた史織を僕も抱き締め返す。

「そんなに何度も繰り返されたら、僕、破れちゃうよ」

「ば、バカ!縁起でもないこと言うなよ!」

ほんとは、背中が少し、草の汁が染みてフヤケてきてる。服を剥ぎ取られていたことを思い出し、そういえば肌寒くて、くしゅん、とくしゃみが出た。

「…あ、寒い?」

史織は僕の身体を起こしてくれて、温めるように背中から抱き締めてきた。
僕らは草むらの上で、風が吹けば飛ばされそうな心許無さで、身を寄せ合い、星空を見上げた。

「ねえ、瑪来」

優しい史織の声に振り返ると、史織ははにかんだ笑顔を見せながら、僕の髪に傍らに咲いていた一輪の野花を挿した。

「これ、俺だと思って、瑪来の中に挟んでて」

「ん。知ってるよ。こういうのって、押し花、って言うんだ」

「さすが、瑪来は頭がいいな。何でも知ってる。そういうのって、瑪来の中に書かれてるのかな?」

「自分じゃ…中…見えないから…」

「そうだね。待ってて、瑪来。俺が読んであげるから。待ってて、瑪来…」

「うん…」

僕の中の一輪の花は、色褪せることなく、ずっと僕の心の中で咲き続けるだろう。
再び君が、僕の中を開いて見つけてくれる、その時まで…。




(おしまい)
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