*BL Original novel・3*

□恋の花咲く種を蒔こう
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車を運転する課長の横顔をチラリと見る。深夜の二人きりのドライブだ。
隣の人の、黒縁眼鏡はその下のホントは美形な顔を隠すのに役に立っている。だけど目の下のクマは隠しきれていない。疲れた横顔、今幾つだったっけ?俺よりも5、6歳上だから、三十半ばか?

「…ふ…、あふ…っ」

課長が何度目かのあくびを噛み殺した。

「…課長、運転代わりますよ?」

「いや、いい」

深夜の山道を会社所有のオンボロワゴン車でひた走っている。運転しているうちの平木課長は、涙目になりながらも必死に運転を続ける。

「危ないですよ。俺が運転するんで、課長は寝てていいですから」

そう、何度か交代を促すけれど、その度に課長は「いい」を繰り返すばかり。普段から融通がきかない強情な人だけれど、さすがに今回は俺も命がかかっているので、引き下がらない。

「課長、ほんと、ここ道悪いですし…」

「俺は運転していないとダメなんだ」

薄暗い車内では表情はよく見えないが、その横顔に眼鏡が光る。

「は?」

「…俺は、子供の頃から車に酔いやすい。だけど運転していれば大丈夫だから」

「ああ、そういうのってよく聞きますよね。でも、すぐに寝ちゃえば平気ですよ」

「…こんな曲がりくねってガタゴト揺れる道で…、酔わないはずがない」

石頭のこの人は、思い込んだら本当にそうなってしまうだろう。

「じゃあ、少し車を止めて休みませんか?」

そう言うと、プルプルと小さく頭を振った。

「こんな山の中なんかで休めるはずがないだろう」

課長はブルッと身震いした。

「え、あ…。怖い話とか苦手な方なんですか?そういえばこんな…」

「うわっ!や、やめろ!おかしなことを話すな!」

「…ぷっ」

「ふんっ」

いつもは冷静な課長の取り乱した声が可愛くて、思わず笑ってしまった。横目で課長を伺えば、ムスッとして唇を尖らせている。この人は、ほんと…。この二面性にやられてしまっている部下がすぐそばにいることなんて、まったく気が付いてもいない。

「あ、でも、今ので少し眠気が覚めてよかったですね」

機嫌を損ねたのか、課長は返事を返さない。いや?なんか、視線を変に漂わせたり、急に落ち着かなくなった。

「やばい…」

課長がそう言うと、車が道の端でプスン、と止まった。

「ガス欠だ…」

課長の声が心なしか震えていた。見た目には、はっきりわかるほどにズーンと肩を落として俯いて固まっている。
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