*BL Original novel・3*
□秋空Fall in Love
1ページ/4ページ
「明日の体育祭!目指すはクラス優勝!みんな、頑張ろう!」
〆のSHRで生徒たちに激を飛ばした。
「先生!優勝したらなんかおごってよ!」
なんて、恒例のおねだりも「よし!まかせろ!」なんて胸を叩いて受け入れた。だけど、
「てめえら!うるせえんだよ!安月給の教師にたかるんじゃねえよ!」
なんて、素直に喜べないようなかばい方をしながら、宮元くんが立ち上がった。体も大きく声もでかいし、態度もでかいから、一見怖そうに見えるけれど、実際もなかなかに強面な生徒だ。
「だ、大丈夫だよ、いつものガリガリ君にするつもりだし…」
「そういう問題じゃねえよ!先生が…、こいつら全員におごるのが許せねえ!」
ざわつく教室内を宮元くんはギロリと見回した。みんな黙ってしまう。
「いや、あの、まだ優勝したわけじゃないからね…」
それこそ、とらぬ狸の皮算用で揉めても仕方がない。
「ゆ、優勝したら…その…」
急に宮元くんが口篭った。周りの子達も何事かと宮元くんを見上げる。
「お、俺に…、いや、お、俺を!…その…先生が…、いや、先生を…」
いつもの態度とは180度違う、赤い顔してモジモジと宮元くんは俯く。
「あ、そうか。宮元くんは体育祭の実行委員だったよね」
こんな乱暴そうな子だけど人望もあるんだ。
「よし!宮元くんにはガリガリ君2本!その代わり、めっちゃくちゃ頑張ってね!」
ガクゥッ、と宮元くんが肩を落とした。力なく席に座り、突っ伏した宮元くんを周りの子達は面白そうにつついたりしてからかってる。どうしたんだ?
そんなとき、チャイムが鳴った。
「号令係!」
僕の合図で挨拶を済ませ、僕は荷物を抱え、教室を出て行こうとした。が、先にドアが開いて、HRが終わるのを待っていたらしい隣のクラスの生徒が顔を覗かせた。
「あ、マリちゃん、今日も可愛いっすね」
茶髪の頭にはカチューシャにピン止め、乙女チックな髪型はちょっと校則違反の隣のクラスの住吉くんだ。
「てめえ!うちのクラスに足を踏み入れるな!」
「うわっ!」
いきなり、僕の背後からぬうっと影が被さった。そして怒鳴った。恐る恐る振り返ると、…宮元くんだ。
「別にマリちゃんに会いに来たわけじゃないし。宮元、お前に用があって来たんだし」
「俺には先生に色目を使ったように見えたが…」
「ないない。宮元のマリちゃんにちょっかい出そうなんて勇気のあるやつ、いないって」
おかしなことを住吉くんが言う。小首を傾げている僕に住吉くんは素早くウィンクをしてきた。
「んで、さ、宮元、明日の準備のことなんだけど」
そういえば住吉くんも体育祭実行委員だ。なかなか気が付く子で、こういうイベントでは引っ張りだこになる。
「頼んでたやつ、書いてきてくれた?」
「忘れた」
「えーっ!」
ぶすっとした顔で「忘れた」と言った宮元くんは悪びれる様子もない。
「お前、結構達筆だから頼んだのに。てか、お前の実行委員の仕事、それしかなかったのに…」
「それどころじゃねえ!俺は、明日…、優勝したら…、その…」
かと思えばまたモジモジが始まった。
「宮元ってさあ?イベントの度にそれ言ってるよねえ。明日こそ告白すんの?」
「住吉!!この!黙れっ!!」
「ぐわぁあ!」
宮元くんは住吉くんの首に肘をかけて、そのまま廊下へ引き摺り出してしまった。仲良しの二人だから、喧嘩じゃないはず?大丈夫かな…。なんてオロオロしているちょうどそのとき、隣のクラスの担任の岩井先生が通りかかった。
「住吉!うるさいぞ!」
ピンポイントに住吉くんを叱って、そのまま通り過ぎようとした。
「ひどっ!俺は何もしてないっすよ!」
なんて言いながら、住吉くんはヒョイッと宮元くんの腕から逃れた。
「岩井センセ、荷物持ってあげる」
そして、岩井先生が抱えていた書類をパパっと奪った。
「な、なんだよ!お前、どうせ隣のクラスの先生目当てで隣のクラスの生徒になりに行ったんじゃないのか?」
「なーんでそういう意地の悪いこと言うっすかねえ…。あ!宮元!俺、いいこと思いついたから、頼んでたやつ、やっぱ自分で書くわ。…ね、岩井センセ、俺仕事すっからセンセの準備室の机貸して。え、あ、ちょっとぉ!」
賑やかな嵐のように、住吉くんは去っていった。宮元くんはなぜだか僕をギロリと睨んだ。
「今、住吉が言ったこと、忘れてくれ!」
「…へ?何を?」
「……何でもない」
宮元くんはまだ僕をじっと見つめる。なんだろう…。
「あ、明日、頑張ろうね」
とりあえずそんなことを言った僕に、宮元くんは…、
「ああ。絶対優勝してやる!任せてな!」
って、白い歯を見せてニッコリと笑った。その笑顔に、ドキリッ、としてしまった。いい子の時の宮元くんは、こんなにも爽やかでイケメンなんだよね。ガッツポーズを決めながら立ち去る後ろ姿が、とっても頼もしく見えた。