*BL Original novel・3*

□秋空Fall in Love
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   *


秋晴れに恵まれた体育祭!
クラスの応援もしたいけれど、僕は用具係担当で大忙しだ。

「マリちゃん」

午前中の最後の競技の支度をしていると、住吉くんが声をかけてきた。

「これさ、次の借り物競争の借り物カードなんだけど…」

「あ、住吉君が持ってたの?探してたんだから…」

「あのさ、俺、カード並べる係になるから。マリちゃん休んでて」

「え?いいの?」

「いいのいいの。あ!ただし、その辺に居て。頼むっすよ」

「え、あ、うん…」

住吉くんはスキップをしそうな勢いで、グラウンドへスタンバイに向かった。気がつけば、岩井先生が僕の横に立っていた。

「ったく。あいつもこの競技にエントリーしてるっていうのに、何やってんだか」

そう言って、見つめる先は住吉くんだ。

「働き者ですね、住吉くんは」

「…あっちこっちにいい顔振りまいて、忙しいやつだよ」

岩井先生は、住吉くんの事になると厳しい物言いをする。住吉くんは、グラウンドから僕らに手を振る。僕は手を振り返したけれど、岩井先生は「ふんっ」なんてそっぽを向いた。その時、ゾクリッと背中に悪寒が走った。なんだ?と僕は辺りを見回した。
──借り物競走のスタートを待つ軍団の中から、鋭い視線が僕を睨みつけていた。…宮元くんだ。
思わず隠れようとする僕に、無駄にでかい声の持ち主は、グラウンド越しに叫んだ。

「木月先生!俺以外の応援するんじゃねえぞ!しっかり俺を見てろ!!」

みんなが一斉に…宮元くん…じゃなくて僕の方を見る。なんで?!ほんと、隠れてしまいたい!

「あーいうことは大声で言えるくせにね。大事なことは言えないんだよね、宮元って」

岩井先生は肩をすくめて呟いた。

「…はあ…?」

曖昧な返事をする僕に、

「こっちの鈍さも天然記念物ものなんだけどね」

と、笑った。岩井先生は、笑うといつものしかめっ面(失礼)が和らいで、少し幼くさえ見える。可愛らしい人だなって思う。

パーンッ!!
ティキティキティキティキ〜♪

スタートのピストルの音と、賑やかなBGMで競技はスタートした。
スタートラインからコースを半周すると足元に『借り物カード』が置いてある。競技者はそこに書かれた品物を周りの人から借りて来て、それを手にゴールすることになっている。
勢い良くスタートした競技者たちが、カードの手前で立ち止まった。みんなすぐにはカードを拾わない。戸惑った表情を浮かべ、お互い顔を見合せている。
ん?あ!借り物カードの裏表が逆だ!住吉くん、そのカードは何が書いてあるかわからないように伏せて置かなきゃいけないのに!
みんな、すでに見えている『借りてこなくてはいけない名前』の前で悩んでいる。おもむろに、意を決したかのような表情の子が、一枚のカードを拾った。そしてダッシュで応援席の方に向かった。

「あ、あの!昨日はごめん!」

その子は応援席の誰かに向かって頭を下げた。何事?周りの子達もみんなキョトン、としている。そうこうしている間に、謝った子と謝られた子が手を繋いでゴールした。
僕は係がゴールで受け取ったカードを見せてもらった。そこには『喧嘩した人に謝って、許して貰う』と書かれていた。ぼーっとしていた他の競技者たちも、我に返って慌ててカードを拾い出した。
笑顔でゴールする子、ゴール出来ずに棄権する子、なにやら危険な匂いのする競技になってきた。
集まったカードに書かれた言葉は、『お互いが一番の親友と認め合った者』だの、『お願いですからメアド教えてください』『俺の思う学校一のイケメン』だのと、借り物競走らしからぬ言葉が書かれている。

「先生―っ!」

おっと、余所見をしていたらいつもの声に叫ばれた。とりあえず、うん。うちのクラスのホープだもんね。

「宮元くん!頑張れーっ!」

叫び返して上げると、向こうから雄叫び付きのガッツポーズが返って来た。気合が怖い。
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