*学園*
□ツンの憂鬱
2ページ/5ページ
ようやく片付いた仕事を確認し、執行室に鍵をかけて、帰路に付いた。
とはいっても、校舎から寮へ戻る数分のことだが。
「なあ、十以。俺、仕事ちゃんとしたからさ、ねえ、あのさ…。あのさ!今日何の日か覚えて…」
暁がまとわりついてくる。
「あ!」
大事なことを思い出した。
「忘れてた…」
「おお!さすが十以!俺のことちゃんとわかって…」
「執行室に今日借りた本忘れてきた…」
「えええ?!」
踵を返した俺に、慌てて暁が付いてきた。
後ろから俺の腕を掴んでくる。
「なあ!十以!」
「人前で俺に触るなって言ってるだろう!離せ!」
その腕を振りほどいた。
「…部屋でも怒るくせに…」
こいつが抜群の統率力とカリスマ性を買われた生徒会長なんて、ほんと、嘘だ。
生徒会のやつらにはもうすでに、こいつの二面性はばれている。当たり前だ。今日もあの惨状。
だけど、確かにモードが切り替わった暁は目の色が変わる。
全校生徒の前でも物怖じしない、頼れるお山の大将になる……。
「あった。悪いな、俺の忘れものに付き合わせて…」
会長デスクの上に置いたままだった本をカバンにしまいこんでいると、背後でガチャリ、と鍵のかかる音がした。
振り返ると、暁が、じっと真剣な顔してドアを塞ぐように立っていた。
目の色が…
強気モードに変わってる…
やばい!
「帰るぞ!」
「十以!」
がっしり両腕を掴まれて動けなくなった。
「十以、今日は何の日か言ってみろ…」
「…知るか…離せ…」
「知るか、じゃねえだろう?!俺はお前の何なんだよ」
「同室者」
「違う」
「生徒会メンバー」
「違う」
こいつが言わしたい事はわかっているけど…。思い当って頬が熱くなるのを感じる。
「なあ、恋人の誕生日、忘れちゃったわけ?」
暁に先に言われて、ぷいっと顔を横に背けた。顔が熱い。
「恋人…とか言うな。恥ずかしい…」
誕生日…だって…ちゃんと覚えてる…。
「だったら!少しくらい優しくしてくれたっていいだろ!プレゼントとか欲しいなんていってないんだからさ!」
当たり前だ。
こんな山奥の寮住まいじゃあ、ほいほいプレゼントの用意なんかできるか。
「どうせ、会長素敵ーとか勘違いした下級生から何か貰うんだろう」
「貰いっこねえだろ!俺がお前しか見えてねえの全校生徒が知ってんだろう!」
それは由々しき問題だ…。
「なあ!なあ!十以!」