*学園*
□しあわせを抱いて窒息死
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「ぎゃあああ!」
僕の代わりにモンスターが悲鳴を上げた。
「んーーーっ!」
手は動かないから、足をばたつかせてもがいてみる。
金髪が僕の顔をさらりと撫でて唇から離れた。
「…見ての通り取り込み中だ。出て行ってもらおうか」
「いーやーーー!」
モンスターが今度こそ部屋から飛び出して行った。
「…あー、うるせー…。おい、おめえも…、おい?おい!」
頬をパシパシ叩かれて、はっ!と意識が覚醒した。
唇を手で覆いながら、慌て体を起こした。
な、なんか、とんでもないことをされたような気がするけど、何でもない風に、またごろりと横になった先輩…だらしくなく緩められたネクタイの色からして先輩だろう…が、また雑誌を広げたので、僕も極力何でもないように、そうだ、お礼を言わなくては。
「危ないところを助けて頂いて、ありがとうございました」
そう言って、ベッドから降りようと足をぶらつかせたときに、腕を掴まれた。
「…どうでもいいんだが、別に興味はねえんだが、説明くらいしていけ」
したつもりだったんだけどなあ。
でも、いっつも「お前は言葉が足りない」って怒られるしな。
「さっきの、あの先輩に、付き合って欲しいって言われたんです。それで、いいですよって、僕、ちゃんと丁寧に言ったんです。それなのに…」
「オーケーしたのか、お前…」
「暇だったから。それで、どこに行くんですか?って聞いたんです」
「はあ?」
ちょうど時間があったし、先輩の頼みならちゃんと聞かないとって、どこに付き合うのかな?何かお手伝いでもあるのかな?って思ったんだい。
「何て言った?あいつは?」
「天国へ行こうって…」
ぷーっ!と雑誌で顔を隠しながら先輩が吹き出した。その後、笑いを堪えてるみたいに体がフルフル震えてる。
「な、なんか!ただならない空気を感じて、怖くなって逃げ出したんですよ!そしたら笑いながら追いかけて来て…。すっごい怖かったあ!天国って、僕を殺そうとしたんですかね?な、なんか、怖いですよね!?」
「バ、バカかおめえ…」
笑いの混じった声で呟かれ、ちょっとむっとする。
確かに、いつも「バカ」だの「トロい」だのって言われるよ!
「助けてくれてありがとうございました!」
えいっとベッドから飛び降りた。
そして頭を深々と下げると、
「もう、俺の昼寝の邪魔はすんなよ。…ふああ…」
と、雑誌で顔を隠したままの先輩はあくびをした。
*
「融!九度先輩、超こっち見てる…」
夕食時の食堂で、周りの同じ一年の仲間が肘で突いてきた。
「九度先輩って?」
箸を休めてあたりをキョロキョロと見渡す。
遠くの方に金髪の頭を見つけた。
手を振ろうとして上げた手を慌てた仲間が掴んで降ろした。
「や、やめろよ!目を付けられてらどうすんだよ!」
「へ?」
顔を寄せるように、ひそひそと会話が続いた。
「あの金髪の人、ボクシングかなんかやってるらしくって、すっごい喧嘩が強いんだって」
「他校との喧嘩で停学食らったこともめっちゃあるらしいよ」
「授業も全然出ないで、保健室を占領してるらしいって…」
うん。保健室は本当かもしれない。喧嘩についてはよくわからないけど。
「そしてなにより…」
そのとき、食堂の入口が賑やかになった。
生徒会長御一行だ。
「…会長と仲が悪いらしいよ。会長が昔、風紀委員やってたときにぶつかったらしい」
うわあ。
それはまずいかも。
とか思って、九度先輩からも会長からも体を隠して食事に戻ったけど、どうやら見つかっていたらしい。
ぐりぐりと頭を撫でられ、しぶしぶ顔を上げた。
「融!お前、ひどい目にあったらしいな。まあ、俺が成敗しといてやったからな!安心しろ!」
「融くん、ほんとに気を付けないと…」
その会長様がさらに言う。
「ほんと!お前はバカだし、トロイし、クズだし。…いいか、お前ら!この杉崎融に手を出そうっていうなら、俺様を倒すくらいの覚悟を覚えとけよ!!」
食堂中に響き渡る声だ。
なんでそんなんで拍手喝さいがおこるんだろう?
ちらりと、さっきの九度先輩の方を見たら、目立つ金髪の頭は、もうすでにいなかった。