*学園*
□お兄ちゃんに内緒
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(一匹狼:九度 視点)
消灯後、暗い廊下をそろそろと歩いていた。
決して浮かれてねえ、とか思いつつ、部屋を探してキョロキョロしている自分に少し苦笑いする。
目当ての部屋を見つけて、軽くノックしてみた。
しばらく間があって、そろり、とドアが開いたかと思うと、中から飛び出してきた影が、どんっ、と遠慮なしに胸に飛び込んできた。
その頭を数回、ぽんぽんっと叩いてやった。
「上になんか着て来い。外行くぞ」
慌てたように部屋に飛び込んでいき、パーカーを引っ掴んで戻ってきた融が、へへっと笑って、俺の前に現れた。
「どこ行くんですか?」
と聞いてきた融を人差し指を立てて黙らせる。素直に、神妙な顔して口を閉ざす姿に笑いそうになる。
四階からロビーへと足音を殺して融の手を引いて降りて行った。
玄関で備え付けのサンダルに履き替えると、もう口をきいてもいいのかな?という感じに、
「先輩、どこに行くんですか?」
と、融が小声で聞いてきた。
「花見」
去年までは独りでやっていた夜桜見物に、今年はこいつを連れ出してやろう、なんて、俺は、なんだろうな。甘いな、こいつに。
玄関のドアを開けると、融が身震いするので、その肩を引き寄せた。
俺を見上げて、少し恥ずかしそうに融が笑う。
そんな融に、俺も笑い返してるんだろうな…。
これは…。俺のイメージ…なんてものがあるなら、崩れちまう。
こんな時間なら誰にも見られない。
じゃあ、いいか。
いいよな…。
「寒くないか?」
とか、らしくない声出してるのも、こいつしか聞いてないから、まあ、いいか。
「うわあ…」
と中庭に着いたとたん、融が声を上げた。
外灯に照らされた桜の木が一本。
もう散り残りではあるが、夜桜見物はまだ楽しめる。
ただ…。
思わず、「っち」と舌打ちしてしまった。
中庭のベンチにはすでに先客がいちゃつきの真っ最中。
ベロベロとキスしてんじゃねえよ!
「先輩もああいうことしようと思ったんですか?」
とか、融は聞いてくるし…ったく!
融を睨みつけたそのままの視線を邪魔なカップルに向けてやった。
こっちに気付いたボケ達が慌てて体を離した。
んでもって、まあ、転がる様に逃げ出して行く…。
「ほら、空いた」
とか言った俺を融が呆れ顔で見てきた。
別に、力尽くでどかしたわけじゃねえだろう。
融の手を引き、ベンチにドカリと座り込んだ。
ほら!花見だ!
と、横を見れば、大あくびしやがるし。
融の肩を引き寄せて、俺の肩に凭れかけさせた。
ったく。
隣で寝られたんじゃあ、いつもの独りの花見と同じじゃねえか、と、目を閉じて眠りに落ちそうな顔を見詰める。
「寝るなら部屋に帰れ」
重そうな瞼を必死に持ち上げ、融が上目使いに俺を見る。
「いやだ。ここで先輩を見てる…」
花を見ろ。
ったく。