*学園*
□皐月祭
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「どしたの?王子様」
王子様が僕にぎくっと気が付いた。
つい覗き込んでしまった兎川と名前の入った棚には、相変わらずの封筒…ラブレターが。
僕の視線に気が付き、王子様は、棚の中の封筒を手に取ると、ぐしゃっとそれを丸めた。
「こ、こういうの、もう止めてほしいんだよね!」
そう言って唇を尖らせる表情が可愛い。
「こういうのがあるから、また篠ノ井にからかわれるんだ」
最近、王子様親衛隊の連中が呪文のように口にするその言葉は「篠ノ井憎し…」。
だけど、僕の見た限り、王子様と篠ノ井は、同室者っていう関係から一歩、進んじゃいないね。
王子様はそう簡単に落ちやしないのかもしれない…。
いや?
王子様の方も篠ノ井に気がある?
少し頬を染めてるツンが薄まってる王子様のその表情、それは…。
「王冠の呪いが…」
あああ!
僕の中の悪魔が勝手に喋り出す!
王子様は眉をひそめて僕を見た。
「去年ゲットした王冠は結局どうしちゃったの?」
「踏んで燃やして捨てた」
うは。
「王子様の恋愛を成就させてあげられなかった王冠が寂しがってるんだよ…。そして…王子様の新しい恋を邪魔してるのかも…」
王子様が両手で両腕を抱き締めて身をすくめた。
「や、やめてよ!そういう怖い話は苦手なんだから!」
「その呪いを解くには…もう一度王冠をゲットするしか方法が…」
「や、やめてったら!」
ついっと、紙とペンを王子様に差し出した。
「王冠が欲しいかったら…ここに名前をぜひ…」
ますますおどろおどろしい声で言うと、ほんとに泣きそうな顔をしながら、王子様が紙に殴り書きで名前を書いた。
「も、持田!あとで覚えてろよ!」
王子様らしからぬ台詞を吐き捨てて、王子様が走り去った。
ふふふ…。
悪魔に身を任せるって、なんだか気持がいいかもしれない…。
なんて、ごめんなさーーい!
*
寮の中でも、さらなる獲物を狙うハンターな僕は、キョロキョロと辺りを見渡しまくる。
獲物を探す僕の鋭い視線は…ひーーーっ!襲い来る敵を察知した!
一息入れようと、夕飯をかっ込んでいた時だ。
「おい!持田!」
「持田!」
向田と篠ノ井がツートップを組んで僕に襲いかかってきた!
まずは向田が僕に顔を寄せ、低い声で言って来た。
「夕を皐月祭に出す気はないからな」
「え?あ?そうなの?」
「そうなの?じゃないだろ!」
「夕ちゃんには、向田に内緒ねって言ったのに…」
「夕が俺に隠し事できるわけ…って、持田!夕が危ない目に合ったらどうするんだ!」
あー、やっぱり、去年の事件を警戒してるのか…。
「向田が守ればいいじゃん?」
「そういう問題じゃない!」
ひーん。
いつも優しい向田が怒ると怖いよお。
視線を逸らしついでに篠ノ井に向き合う。
「篠ノ井もご用は同じで?」
「……うちも同じだ」
ぶっきらぼうに篠ノ井が言った。
その横で、向田がちょっと意外そうな顔で篠ノ井を見たので、僕の頭に、ピンッ!と閃いたものがあった。
「うちも?!うちもって、篠ノ井って王子様と付き合ってるの?!」
ちょっと声がでかかったかな。
周りの数人が振り返った。
「ちょ、お前!」
慌てる篠ノ井を無視して続ける。