*学園*
□皐月祭
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A
「淑架ちゃん、王子様になってみない?」
ぼさぼさ頭で黒ぶち眼鏡をかけた可愛い王子様。
なんてね!
そのとき、横から僕の手から淑架ちゃんの手を、すっと引き離した手があった。
「それって、洛山に、その…脱げってことですよね?」
手を伸ばしてきたのは一年の奈良くんだ。
「え?!」
淑架ちゃんが奈良くんに手を取られたまま赤くなった。
「あー、だから!ほら!察しろよ!眼鏡外すって意味な?」
奈良くんまでつられて赤くなってる。
「んー?まあー?そうしてもらえると…」
そうしてもらう気で声かけましたが…。
「駄目です」
奈良くんがきっぱり言った。
「何で奈良くんがそういうこと決めるの?持田先輩困ってるんだよ?」
淑架ちゃんが奈良くんにくってかかってる。
「だって、お前、こないだだって、先輩に追っかけられて…、って、ばれていいのかよ?!」
「ばれなければいいじゃないですか?」
「だから俺は!ばれたらどうすんだって聞いてんだ!」
ぎゃいのぎゃいの始まった二人の視界から完全に消えてしまったかのような僕…。
そんなとき、ふらりと溝内先輩が僕のそばにやってきた。
肩をポン、と叩き、
「もっちだくん、どう?調子は?」
とお気楽に声をかけてきた。
「うわっ!」
いきなり奈良くんが叫んだ。
「行くぞ、洛山!」
喧嘩してたはずなのに、奈良くんはその淑架ちゃんの腕をむんずと掴むと、僕の前から急ぎ足で消えて行った。
ぺこり、と淑架ちゃんが離れた場所から頭を下げてきた。
「おっ!あの二人さ、付き合ってるみたいだよ。知ってた?もっちだくん」
何得意げに言ってるんですか、溝内先輩。
僕に情報で敵うはずがないじゃないですか。
「でね、もっちだくん。お願があるんだけど…」
溝内先輩が自慢のサラサラヘアを掻き上げる。
「僕はあの子がいいと思うんだよねえ…。で、麗しのあの子は見つかったのかい?」
あー!もう!
面倒くさいな、この人は!
まさか今さっきまで目の前に居たよ、なんて教えられるわけもなく。
「あの…先輩…」
おずおずと掛けられた声に振り返った。
「融ちゃん!」
僕よりも先に溝内先輩が反応した。
あ、べたべた触ってる。
お兄ちゃんに怒られるんだ!
まあ…今じゃそれよりも怖いあの人がいるんだけど…。
あれ?
「融くん一人?」
会長の弟であるこの可愛い融くんは、こくりと頷いた。