*学園*
□僕のベビーフェイス
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意識するというのは、こういうもんだと思い知る。
今まで存在さえも知らなかった人物がスポットライトを浴びているみたいに、どこに居ても居場所がわかっちゃったりする。
綺麗で、可愛い子だけが浴びるもんだと思っていたスポットライト。
なんであんな子に当たっているのか、よくわからない。
たまにこっちの視線に気が付いて、にこって笑ってくる。
あ、八重歯。
あー…。
ぐちゃぐちゃするときは、あの相談室に行こう…。
談話室の持田の席は僕の予約が入っていたのだろうか、ちゃんと空席で待っていてくれた。
「もっちだちゃーーん…」
あ、ちょっとうざそうな顔したな?
最近ちょっと付きまとい過ぎてたからねえ。ポスターの件で…。
「ねえ、もっちだちゃーーん。僕にはやっぱり、麗しのお姫様みたいな子が似合うよねえ…」
あ、テレビの方向いちゃって、聞こえませんーってつもりだな…。
あ、クッキー頂きます。
「ねえ?ボリボリボリ……例えば僕の隣に、ちんちくりんでぼさぼさでキャンディキャンディみたいで噛みついてきそうな子がいたらどう思う?ボリボリボリ……例えば……!この子みたいな!!」
いいところに通りかかったねえ!
モンタージュよりも本人のがわかりやすいよね。
というわけで、通りすがりの新田くんの腕を掴んで、持田の前の空いてる席に座らせた。
きょとん!としてる新田くんの前で、持田もビックリした顔してる。
僕は腕を組んで、隣に座らせた新田くんをしげしげと眺めた。
うーむ…。
いかさない…。
「んー…、前髪上げてみたらどうだろう…。持田、カチューシャない?ない、あっそ。あ、ゴムがあった。これを、こうやって…ヘアバンド代わりにして前髪を上げたら…。お?この方がさっぱりしていいかも?!
んー…、なんで制服だぶだぶなの?お兄ちゃんのお下がり?袖まくりしてみる?ん…あとは…眉とかちょっと整えるとか…」
「あのー…あのー?!溝内先輩!!」
新田くんの顔をいじくりまわしていたら、持田が声を荒げた。
「いたいけな1年生に何してるんですか!!泣きそうな顔しちゃってるじゃないですか!!」
はっとなって手を止めた。
新田くんの顔を覗き込む。
真っ赤な顔してふるふるしてる。
「み、溝内先輩にふさわしくなる為でしたら僕…耐えます!」
とか、言ってます…。
僕にふさわしい麗しのお姫様…。
天使のようなベビーフェイス…。
そんなのじゃなきゃ、僕の隣はふさわしくないと…思って…た…。
「そうか!努力すれば可愛くなるかもしれないな、新田くんは!磨けば光る原石かもしれない!僕が磨いて上げる!」
そう!
原石を磨き上げる試練を神様は僕に与えたのかもしれない…。
「………要するに、先輩。こちらの1年生とお付き合いするってことですか?!」
目を輝かせ始めた持田が、僕と新田くんに交互に視線を送る。
「あ、いや、まだ…そうと決めたわけじゃ…」
なぜかしどろもどろになってしまう。
だって、だって…。
「僕なんかじゃ溝内先輩に不釣り合いですよね…わかってます…」
新田くんが、ぼそっと呟いた。
チクリと胸が痛む。
そんな可愛いでもない子に言われて胸が痛むなんて…。
「そんなことないよ!君は、溝内先輩なんかにはもったいないくらい素敵だよ!」
持田、もったいないって何さ。
「心の底から応援するよ!君と溝内先輩のこと!」
なんか、持田、晴れ晴れとした顔してる。
まあ、いいか。
「頑張ります!僕。溝内先輩にふさわしい男になれるように!」
一生懸命な瞳で、そう見つめられたらね…。
というか…。
いつの間にか…。
新田くんが可愛く見えてくるのは…何ていうマジックですか…。
「うん…、まあ…、僕も今ちょうど…なんていうか…フリーだし…」
歯切れが悪くてごめんね。
でも、嬉しそうにニッコリ笑う八重歯に僕も笑い返していた。
*持田極秘メモより*
しかし、あの1年生の新田朋の成長期には驚いた。
夏休み前には僕より背が低かったのに、夏休みが終わったら、溝内先輩すら追い抜いてた。
顔つきまでしっかりしてきて、幼さが残るものの(チャームポイントの八重歯が幼さの原因か?)すっかり大人っぽくなってきた。
なかなかにモテ始めたご様子。
だけど、恋人の席は売約済みっと。
(おしまい)
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