●捧げもの●

□「いつか君が」〜ボイスん。コラボ
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夢の時欠片:羽亜優様の『いつか君が』をお借りして『ボイスん』の二人が演じました。




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……油断した。

気の緩みがあったのかな?
いや、逆だ。
気を張り過ぎてたせいだし、役に入り込み過ぎてしまったせいだ。

「お、おい…」

横のマイクに立つ宮元さんが驚いた顔で僕を見てる。

「う…、ぐっ。め、目にゴミが…うっ、はい、入っちゃって…」

宮元さんが肩をすくめた。
溢れ出て来てしまった涙の言い訳に、恥ずかしくなって蹲った。

「ちょっと止めて」

宮元さんがマイクに向かって言ったようだ。「止めますー」と間延びした声がスピーカーから聞こえた。
肩に手が置かれた。

「マリ、外に出るぞ」

その声に、顔を上げる前に手の平で必死に涙を拭った。
足音のしない絨毯張りのスタジオから、宮元さんの後に続いてロビーへと出た。

「あ、あは。感情入り過ぎちゃった」

笑って誤魔化そうとするけど、振り向いた宮元さんの顔は真剣だった。

「…マリ」

腕を掴まれ引き寄せられた。その胸に抱き締められる。

「みっ!宮元さん!こんなとこ誰かに見られたら…」

「るせえ。……俺からは死んでも言わない。安心しろ」

「あ…」

ずばり、図星をつかれた。
胸の奥をギュッと掴まれた気がした。

「重なっちまったんだろ?…俺の台詞が俺の言葉に聞こえたか?」

隠しようもないから、こくりと頷いた。
熱くなった頬を宮元さんの胸へと押し付ける。

『俺達、別れよう』

台本に書かれていた言葉を宮元さんが口にした。

年上の恋人と付き合って、無理に背伸びをして見せているけど、実はまだ全然子供で甘えん坊で。そんな僕の役と、僕自身が重なった。
そして、宮元さんの役は、ちょっとぶっきらぼうで怒りっぽくて、まるで本当の宮元さんが言っているみたいな台詞を言うから…。
だから…。
一瞬、演じてるのか?何なのか?
台本の中の人物が喋ってるのか?宮元さんが喋ってるのか?
わからなくなって混乱した。

そして…。

『別れよう』

そう言われた瞬間、涙が勝手に溢れ出てしまった。

ぐぐっとまた胸に何かが込み上げてきた。必死になって抑え込む。肩で深い息を繰り返す。背中を撫でる手が温かい。

「もう、好きじゃない」

ドキリとする言葉は台本にあったものだ。

「もう大切じゃない」

目をぎゅっと閉じて、その言葉を受け入れる。
宮元さんは、台本のセリフを暗記しているのか?

「もう……愛してない」

すうっと最後に大きく息を吸った。

「もう…大丈夫です」

どうにか顔を上げると、細められた優しい視線にぶつかった。

「マリがこの言葉を真に受けるとは、俺の演技もまだまだだな」

「え?」

額をごつんとぶつけられた。

「言葉の裏を読め、裏を」

「あ…」

慌てて手にしていた台本を開く。

「あ、でも!将来は幸せになるかもしれないけど、この場面では真に受けてショックを受けていいんですよ!」

くくっと宮元さんが笑う。

「泣いたなんとかがいっちょ前なことを言う」

う。確かにそうだけど…。
やっぱり、ちょっと意地悪なところが、宮元さんと宮元さんの演じる役はそっくりだ。

「ま、もう大丈夫そうだな。中戻るぞ」

「あ、はい!」

気持ちを引き締める為に頬を両手で数回叩いた。

「……まあ、最後までちゃんと聞いてろ。俺の愛の叫びを、な」

とか、言う宮元さんは、少し照れくさそうに頬を掻いた。






「……愛してる…」


あなたも…

物語と自分を混同してる。

その言葉は…

僕に向かって投げられている…。






(おしまい)






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