短い小説

□ココロ、トケル…
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「よしっ…行こう!」

みんなが慌ただしい昼休み

梓は勇気を振り絞って教室を出る

「がんばって梓ちゃん!」

慌ただしいのも他ではない

今日は2月14日

バレンタインデー

「隆治先輩…喜んでくれるかな?」

最近はずっと今日のことで頭がいっぱいだった

先輩からのお誘いも断ってまで憂に教わった

形が悪いかもしれない、味が悪いかもしれない

何か所か火傷だってした

拙い出来だけど、先輩が喜ぶ顔を想像して一生懸命作った

想いだけはいっぱい籠ってる自信はある



梓は階段を上り始める

やっぱり、上の学年のところに行くのって緊張するなぁ…

そんなことを思いながら

階段を一段一段踏みしめる

ふと気がつくと、箱を持つ手が震えていた

「わ…渡すだけなのに…」

上の階からもたくさんの女子生徒の声が聞こえてくる

その声がさらに緊張を増幅させる

そして、やっとの思いで階段を上りきった

廊下に差しかかると一人の人物が目に入る

あの身長、あの体格

あの後ろ姿は間違いない

「隆治せんっ……ぱい…?」

先輩の名前を叫ぼうとした

しかし、状況を把握して声が喉元で止まった



そう、隆治の周りにはたくさんの女子生徒が群がっていたから…



「…」

声が出なかった



わかっていた

こうなってることぐらいわかっていた…

あんなにかっこよくて

あんなに優しくて

あんな凄いライブをするくらいだもん

そりゃあ人気が無いはずがないよね…



梓は無意識のうちに足が後ろに進んでいる

するとその時、振り向いた隆治と一瞬目が合った

「…っ!」

梓はそれを振り切るかのように階段を駆け下りていった



何だろうこの気持ち…

私…先輩と付き合ってるんだよ?

なのに…

何で私は逃げてるの…?

何でこんなに悔しさが込み上げてくるの?



梓の目尻からは一粒の涙がこぼれていった

夢中で階段を駆け下り

教室に飛び込んだ

「あっ、おかえり梓ちゃん!どう?渡せた?」

憂が笑顔で迎え入れてくれたが

「…」

梓は無言で首を横に振り

そのまま机に突っ伏した

「梓…ちゃん?(泣いてる…?)」



今日はもう何もする気が起きなかった
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