しょーと


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「な、あたしのこと好き?」

「何や急に」

部室で雑誌を読んでいた蔵が笑ってあたしを見た。

「なぁほんまに好きなん?」

「好きやで」

「ほんまに?」

「ほんまや。」

蔵はその笑みを崩さなかった。
それでも何だか足りなかった。
あたしはこんなに蔵が好きなのに。
どうして言葉じゃ伝わらないんだろう。

「何や今日は。嫌なことでもあったん?ほなおいで。」

蔵は手招きしてあたしを前に立たせた。

「……………。」

「何かあったなら俺に言うてみ。」

「どうして伝わらないんだろう」

「ん?」

それでも貴方はその笑みを絶やさなかった。

「あたしはこんなにも蔵を愛しているのに」

頬が冷たいと思った。
触ると指が濡れた。

どうやらあたしは泣いているらしい。

「泣かないで」

蔵は指であたしの目の涙を優しく拭いた。


「俺も愛してる。ほんまに。な、泣かんといて。」

「……………」

「自分が泣くと俺も悲しいんや。自分にはいつも笑っててほしい。」

そう言うと蔵は立ち上がって優しくあたしを抱きしめた。

「蔵…蔵…大好き…」

「おおきに。ほんまに嬉しい。」

あたしは蔵の腕の中で目を閉じた―――






























「………………。」


目を開けると、自室の天井が目に入った






数秒後に貴方の声が鳴り響く






聞きたくなかった。








鳴り響く貴方の声を止めて…起きて今日も『あたし』の人生を生きなければならない









それでも、貴方はこの世界にはいないのです。











1人で食べた朝食は、何だか塩っぱかった。



































































































「ほんまに愛してる。な、だから泣かないで。」






そう言って貴方は砕けたガラスのようなキラキラと輝く破片となって消えていった。



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