短編


□My Precious
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 わたしには、おつきあいしてる彼氏がいる。
 年上で、かっこよくて、やさしくて、仕事ができる、自慢の彼氏。
 それに比べてわたしなんて、特別かわいくもないし、勉強も得意じゃないし、性格だってそんなにいいわけじゃない。
 時々、不釣り合いだなって落ち込むこともあるけど。
 ひとつだけ、自信があることがあるの。
 それは、
 わたしが彼を一番好きだっていうこと。



 大学に入学して何が嬉しかったかって、親に飲み会だコンパだって言い訳して、彼のおうちにお泊まりにいけるようになったことだった。
 彼はいつもそれを歓迎してくれて、わたしが真似できないようなおいしいごはんを作ってくれて、夜にはわたしを抱いて眠る。
 いや、いかがわしい意味じゃなく、ほんとに『抱きしめる』だけ。
 大切にしてもらってるなって分かるけど、手を出させるような魅力がないのかなって、ちょっとへこむ。

「ん……」
「しおり? 起きた?」

 目をぐしぐしこすってからまぶたをひらくと、彼がやさしい目をして、わたしの髪をすいているのが目に入った。
 それが心地よくて、このまま起き上がったらもう撫でてもらえないような気がして、わたしはもう一度目を閉じて、彼の胸元にすりよった。

「くーちゃん……」
「ん? まだ眠い?」

 彼――くーちゃんは、わたしのその態度に喉の奥で笑って、彼らしいやさしい手つきでわたしを抱きよせる。それから、おでこにキス。
 くーちゃんにキスされるのが好き。気分がほわあってなって、ああわたし愛されてるなって思えるから。
 よく友達に、一切手を出されないことを驚かれる。わたしはそういう人がいてもいいと思うけれど、彼女たちに言わせれば、どっかビョーキなんじゃない? とのこと。それか、相手にされてないんじゃないかとか。
 やっぱり手を出されないって、おかしいかな。
 でも、相手にされてないわけじゃないと思うんだ。
 だって、おつきあいするって決まったその日、わたしと一緒にお家にやってきて、帰ってきたばかりの父さんの前に正座して、娘さんとお付き合いさせていただいてます、なんて、普通言うかな。
 相手にしてないなら、そもそも「付き合う」なんて言わないはずだし。
 だから、手を出されないことにへこみこそすれ、くーちゃんの愛情を疑ったことはないんだ。



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