短編
□My Precious
1ページ/24ページ
わたしには、おつきあいしてる彼氏がいる。
年上で、かっこよくて、やさしくて、仕事ができる、自慢の彼氏。
それに比べてわたしなんて、特別かわいくもないし、勉強も得意じゃないし、性格だってそんなにいいわけじゃない。
時々、不釣り合いだなって落ち込むこともあるけど。
ひとつだけ、自信があることがあるの。
それは、
わたしが彼を一番好きだっていうこと。
大学に入学して何が嬉しかったかって、親に飲み会だコンパだって言い訳して、彼のおうちにお泊まりにいけるようになったことだった。
彼はいつもそれを歓迎してくれて、わたしが真似できないようなおいしいごはんを作ってくれて、夜にはわたしを抱いて眠る。
いや、いかがわしい意味じゃなく、ほんとに『抱きしめる』だけ。
大切にしてもらってるなって分かるけど、手を出させるような魅力がないのかなって、ちょっとへこむ。
「ん……」
「しおり? 起きた?」
目をぐしぐしこすってからまぶたをひらくと、彼がやさしい目をして、わたしの髪をすいているのが目に入った。
それが心地よくて、このまま起き上がったらもう撫でてもらえないような気がして、わたしはもう一度目を閉じて、彼の胸元にすりよった。
「くーちゃん……」
「ん? まだ眠い?」
彼――くーちゃんは、わたしのその態度に喉の奥で笑って、彼らしいやさしい手つきでわたしを抱きよせる。それから、おでこにキス。
くーちゃんにキスされるのが好き。気分がほわあってなって、ああわたし愛されてるなって思えるから。
よく友達に、一切手を出されないことを驚かれる。わたしはそういう人がいてもいいと思うけれど、彼女たちに言わせれば、どっかビョーキなんじゃない? とのこと。それか、相手にされてないんじゃないかとか。
やっぱり手を出されないって、おかしいかな。
でも、相手にされてないわけじゃないと思うんだ。
だって、おつきあいするって決まったその日、わたしと一緒にお家にやってきて、帰ってきたばかりの父さんの前に正座して、娘さんとお付き合いさせていただいてます、なんて、普通言うかな。
相手にしてないなら、そもそも「付き合う」なんて言わないはずだし。
だから、手を出されないことにへこみこそすれ、くーちゃんの愛情を疑ったことはないんだ。