短編
□きみの名前を。
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「蒼子さん、好きです」
「……はぁっ?」
就職2年目、彼氏なぞできずにさみしくクリスマスイブに残業していたわたしに、サンタさんはプレゼントをくれたらしい。
ピチピチ18歳、「高校生」という眩しすぎる職業を背負った、4歳年下のオトコノコ。立花朝日くん、なんて、目を細めたくなるような若々しい名前を持った彼は、色気もクソもないような女社員をひっつかまえて、そんなことを言ったのだ。
わたしはゆっくりと2度ほど瞬きをして、頬をぺちぺちと叩いてみた。
それから深呼吸をして、にっこり笑ってもう一度彼の顔を見る。
「……ごめん、朝日くん。ちゃんと聞き取れなかったから、もっかい言ってもらっていいかな?」
うん、聞き間違いだよな。
はっはぁやばいね、高校生にコクハクされる幻聴聞いちゃうなんてね。そんなにわたしオトコに飢えてんのかな、いかんねいかんね。
そんなことを考えているなんてつゆとも知らない朝日くんは、わたしのにっこりに応えるように、顔に満面の笑みを浮かべた。
「好きです、蒼子さん。付き合ってください」
うん?
ううん?
うううん?
確かに今のは、愛のコクハクに聞こえた。
いや、でも、まさかまさかまさか。
「………………えっとね、わたしの聞き間違いだと思うんだけど」
「はい」
にこにこ笑って、朝日くんはわたしの言葉の続きをうながす。うっ、爽やかすぎる笑顔が眩しいよ。
あー、わたしけっこう朝日くん好きだったんだけどな、こんな聞き間違いしてるなんて思われたら引かれちゃうかなぁ。お姉さんはさみしいよ。
「……わたしのこと、好きって言った?」
おそるおそる、と言った体で朝日くんを見上げると、さっきと一分も違わないきらきらした笑顔。
「はい、言いました」
にっこり。
邪気の入り込む隙がないほど、澄んだ笑顔。
「ら、ライク? ラブ?」
「ラブのほうです」
にこにこにこ。
彼の返答に呆けた顔をしたわたしと対称的に、笑顔しか表情を知らないんじゃないかっていうくらいに無垢な笑顔を浮かべる彼。
「……からかってる?」
「失礼ですね、いたって大真面目ですよ」
むっとふくれた朝日くんの顔も、高校生らしくてかわいい。
正直それどころじゃないんだけど。