短編
□拝啓、嘘吐きな君へ〜第一話
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言いながら、ひふみさんはわたしの三つ編みの片方を、ひょいと掬った。もう少し太ければいいのにといつも思う、こしがなくて細いわたしの髪の毛。
「そういえば、前にやった髪飾り。あれも付けてくれていないね」
「それは、壊したり落としたりしたらと思って……」
細かい透かし彫りと金の蒔絵が施された、鼈甲の髪飾り。綺麗だと思うし、ひふみさんがわたしのために選んでくれたことはとても嬉しいけれど。
「確かに安物ではないけれど、そんなに高すぎるものでもないから、気にしなくていいんだよ」
わたしの髪を指でくるくるともてあそんだひふみさんは、仕上げにぴんとはじきながら、髪を離した。髪はぱさ、と肩口で一度跳ねてから、胸元へ滑る。
「なにより、この髪にあの髪飾りを挿したところを見てみたい。美津の髪はさらさらで綺麗だから、きっと映える」
冗談なら笑い飛ばすこともできるのに、いたって真面目な顔で言うものだから、わたしは照れることしかできない。
「あ……ありがとう、ございます……」
火照った顔を隠すように俯きがちに言うと、ひふみさんはふっと笑った。
それから、ぽつりと。
「……祝言の日取りは、いつにしようか」
「え……」
顔を上げる。ひふみさんの顔が見える。
時折、ひふみさんはこういう顔をする。
いつもの、優しく見守ってくれるようなそれじゃなくて、なんだか、とても緊張して、どきどきしてしまうような顔。
「時々、どうしても欲しくなるんだ」
「なにを……?」
聞きながら、本当はもう答えが分かっている気がした。
それでも、わたしの考えが自意識過剰のような気がして、答えあわせをしたくなる。
ひふみさんは目をすがめて、こちらを見てくる。
それから、のびてきた手が頭頂に添えられて、額に、口づけが落ちた。
「……美津が欲しい。ずっと、私のそばに、美津がいればいいと思う」
細く、筋ばったひふみさんの手が、頭頂からするするとすべって、耳に触れ、頬を撫でて、顎にかかる。
親指が、唇の上を行ったり来たりする。
くすぐったくて、それ以上に恥ずかしくて、目が合わないように伏せる。
「ひ、ひふみさん……」
「美津は嫌かい?」
優しい声が降る。
金木犀が舞う。世界が黄金色に染まる。黄金色の世界に、わたしとひふみさんの二人だけになったような気分になる。
「い、いや、とか、そういうことじゃなくて……」