短編
□拝啓、嘘吐きな君へ〜第二話
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「美津、手を出して」
「は、はい?」
無事に祝言も終わり、夜、ようやくひとごこちつけるようになって、寝支度をしていたわたしのところに、寝間着姿のひふみさんがやってきて、隣に座った。
嫁入り道具もすべてきちんと運び込み、あとは寝るだけ――なんだけれど、一般的にただ寝るだけで済まないことくらい、わたしも知っている。
どうしたらいいのか分からなくて、ひふみさんがお風呂に入っている間に寝てしまおうと思っていたのに、寝てしまう前にひふみさんが戻ってきてしまった。
隣に座っただけならまだよかったのに、ひふみさんは甘えるみたいにわたしの肩口に頭を寄せてくる。
嫌じゃない。嫌じゃないけど、なんというかそういう問題ではない。
緊張で耳まで赤くなるわたしを、ひふみさんはくすくす笑う。
「美津。手、出して?」
「え、あ、ふぁいっ」
……噛んだ。
とっさに口を押さえるけれど、ひふみさんは頭を揺すって笑う。なんだかさっきから笑われてばっかりだ。
おずおず片手を出すと、ひふみさんはわたしのその手に何か硬いものを握りこませた。
握りこんだ手とひふみさんの顔を交互に見ると、ひふみさんは、見てみて、と言った。
わたしの大きくない手のひらにもおさまりきるようなもの。
そろそろ、手のひらを開く。
「あ……かわいい」
ころんとした、丸い透明な瓶。金の鎖がついていて、中には琥珀色の液体が入っている。
目を輝かせたわたしを、ひふみさんはいつものように柔らかい笑顔で見てくる。
「見つけたんだ、金木犀の香水」
「え、あ……っ」
ここ最近の忙しさで、そんなことを言っていたのをすっかり忘れていた。
慌ててひふみさんの顔を見るけれど、わたしの反応を予測していたようなひふみさんは、苦笑するだけ。
「こ、こんなの、」
「もらえない、はなしだよ。もうお金は払ってあるんだし」
「あの、で、でも……高かったんですよね?」
瓶の細工だけでも、相当な値段がすることは見てとれる。本当にもらっていいものかと瓶を見ていると、どこからかひふみさんの手が回ってきて、瓶をわたしの手のひらから取り上げた。掴んだその手をのばして、鏡台の上に置く。
「ひふみさん?」
その行為に不可解さを感じて、またひふみさんに視線を戻す。
ひふみさんはわたしの顔を見て、艶っぽく笑って――
どくん。
黙っていた心臓が、騒ぎはじめた。