短編
□拝啓、嘘吐きな君へ〜第三話
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まだじめじめとした空気が漂ってこない、すがすがしい夏の朝。赤紫の鮮やかな色に染まった朝顔が、大きく開いていた。
重たいお腹を抱えて縁側に顔を出すと、自らの名に似合わぬほど、明るく笑う秋子。
「かあさま、ほら、きれいでしょう?」
足元にからみついてくる秋子。
甘えたなのは、子どもだからか、それともひふみさんの娘だからなのか。そんなことをふっと思って、思わず笑ってしまう。
「ああ、本当ね。おばあちゃんには見せた?」
「まだです、かあさまに一番に見せたかったから」
「じゃあ、おばあちゃんも呼んでらっしゃい。喜ぶわ」
「はあい!」
頭を撫でてやりながらそう言うと、秋子は素直にわたしから離れ、義母のもとへ駆けていく。
秋子は今年で5歳になる。
不謹慎な言い方ではあるが、わたしよりもひふみさんのほうが、秋子の誕生を喜んだ。男親はみんなあんなものなのだろうか、ひふみさんは驚くほど秋子を甘やかしている。
この子も女の子だったら、やっぱり今の秋子と同じくらい可愛がるのだろうか。膨らんだお腹を見ながら、思う。
産まれるのは秋だという。狙ったわけでもないのに、ふたり続けて似たような日に子どもを産むことになりそうだ。
「――どうしたの、美津。動いた?」
ぺたりと後ろからくっついてくる、秋子よりもずっと大きい甘えたの人。変わらず細い腕が、くるりとおなかに回される。
秋子じゃないな、と思う。
ひふみさんが一番甘やかして可愛がっているのは、秋子じゃなくて、わたしだ。
わたしが六条の姓に入ってずいぶん経つというのに、いまだにひふみさんはわたしにくっついてくる。わたしを甘やかしているというよりは、わたしに甘えている、という方が正しいかもしれない。
「ひふみさん、暑くないですか?」
「夏だからね」
遠回しに離れてほしいと言ったところで、ひふみさんが聞いてくれる気配はない。
「なつかしいね、この髪飾り」
「え……ああ」
それどころか、くっついたままわたしの頭をいじりはじめるひふみさん。ちゃりちゃりと、髪飾りが揺れる音。鼈甲の髪飾りは、やっぱりいいものだったのだろう、壊れる気配なんて微塵もないし、子持ちになった今のわたしがつけてもしっくりとなじむ。