short

□ロリータ・コンプレックスのススメ
1ページ/1ページ





セブルスが騎士団本部へと足を運んだとき、
彼女はリーマスとシリウスと向かい合って他愛もない世間話をしている最中だった。

ハーマイオニーは厨房の低いテーブルの上に軽く腰掛けて、
その前でリーマスとシリウスが壁に寄りかかりながら楽しそうに笑っている。


状況を見る限り、他の団員は不在でハリー達は上の階で馬鹿騒ぎをしているらしい。
上から聞こえるドスンドスンという音に目を細めた後、
セブルスは3人に目線を移し、また眉根に皺を深く寄せた。


彼がテーブルに近付いていくと、最初に気付いたのはやはりハーマイオニーだった。


「スネイプ先生!お久し振りです!」

彼女はこの埃っぽい家には似つかわしくない程、明るい笑顔を彼に向けた。

が、シリウスがセブルスの姿を見留めるとあからさまに顔を歪めて見せ、リーマスは少し驚いたような素振りを見せてから迷惑そうに笑った。


そんな二人の様子にセブルスはフンと鼻を鳴らして、彼女の方へ迷わず歩み寄る。
セブルスを彼女に近付けまいとするかのように彼女の前に立ったシリウスとリーマスを無視して、彼はハーマイオニーに一冊の本を手渡した。


「…休暇前に君が読みたいと言っていた書物だ。」

分厚く、高級そうな獣の皮で出来ている、古めかしいその本。
少しでも文学や研究書に精通した人物であれば、セブルスの手に握られている本の貴重さを知っている。

ハーマイオニーは歓喜で震える手を伸べて、その本を両手で受け取った。


「ありがとうございます、先生!こんなに貴重な物…!まさか、学生のうちに読めるなんて!
ああ、とっても嬉しい!本当に本当にありがとうございます、スネイプ先生!!」

ギュウとその本を抱き締めて、心の底から嬉しそうに笑ったハーマイオニー。


「その本の、『東洋の魔法薬』という章を読むといい。君の希望する進路に大いに役立つだろう。」


僅かばかり緊張を解いたセブルスが微笑んだ。

見慣れないその表情にハーマイオニーは少しだけ頬を染め、
シリウスはゲェと吐く真似をした。


「しかしセブルス、こんな珍しい物どこで手に入れたんだい?」

彼を「セブルス」と呼ぶのは、この屋敷内でリーマスしかいない。もちろんダンブルドアを除いての話だが。

ファーストネームで呼ばれることを快く思っていなかったセブルスは盛大に眉を顰めたが、
ハーマイオニーもリーマスが聞いたことを知りたそうにしているのに気付き、彼は渋々口を開いた。


「…知り合いから譲り受けたのだ。」

彼は多くを語りたくはなかった。

いかに苦労してこの本を手に入れたかをひけらかすのは、恩着せがましいようで嫌だったのだ。
ハーマイオニーだけには、自分がそんな人間だとは思われたくない。


「おいおいスニベルス、君に知り合いなんてものがいたなんて初耳だな」

シリウスは半分冗談のように口にしたが、もう半分には確かな嫌悪感が籠もっていた。

セブルスはそれを気にする素振りは見せない。

なんと言っても今彼女と向かい合っているのは自分なのだ。
そう思うと、彼の言った「スニベルス」は醜い嫉妬にしか聞こえなかった。


「シリウス。スニベルなんてとても汚い言葉だわ。」

「気にするなよハーマイオニー。これは昔からコイツのあだ名なんだ」

「なんですって?それなら尚更酷いじゃない!私を穢れた血と呼ぶのと変わらないわ!」

「それは違う!君は穢れてなんかいない!」

「ならスネイプ先生だって鼻水じゃないわ!先生をもうそんな風に呼ばないと約束して!」


「まぁまぁハーマイオニー、シリウスも本気で言った訳じゃないんだ。
ほんの冗談だよ。誰も彼のことをスニベルだなんて思っちゃいないさ。」

リーマスがシリウスとハーマイオニーの口論を笑顔で宥めたが、
ハーマイオニーは納得したような表情は少しも見せず、「本を2階に置いてきます」と言って、怒ったように厨房から出て行ってしまった。


その後ろ姿を見て、シリウスは反省したように溜息をついた。


「本当に馬鹿なことを言ってしまった。
せめて彼女の前ではそう呼ぶべきではなかったよ。」

せめて、という言葉にセブルスはシリウスをギロリと睨み付けた。
彼女がいなくてもその名で呼ぶな、という意味を込めて。

だが内心、ハーマイオニーが自分のことを庇ってくれたのは思いがけず嬉しかった。
ただ単に、彼女が卑劣なことは許せない性格だからだということは分かってはいたが、
それでも嬉々とした感情が揺らぐことはない。


「彼女は笑ってくれると思ったのにな、“スニベルス”で。」

「フン、笑うものか。
あの娘の性格を考えればすぐに分かるだろう。貴様のように卑劣な脳ではないのだ。」

目を合わせることなく遠まわしに悪態をつき合う二人を無視して、
リーマスは、彼女が去っていった狭い廊下を見つめたまま静かに呟いた。



「―本当に魅力的な女性だよ、彼女は。」



当たり前だと言うように、フン、と鼻を鳴らしたセブルスと、
「今頃気付いたのか」と笑ったシリウス。


どうやら大人3人、
誰一人としてハーマイオニーを譲る気はないらしい。








E N D

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ