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□涙を流した日々は幾億にも重なり合って大きな雨となる。
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「ゴメンなぁ、いきなり走って行って…心配した?」
澪でさえ驚くほどの恐ろしい眼をしていたのが、まるで嘘かのように笑いかける色和。
そんな色和に愁助が問い掛ける。
「…舞咲を追いかけてたんじゃなかったのか??」
「うん、追いかけてんけど……途中で見失ってしもてん。
やっぱりアタシじゃ舞咲の足の速さには敵わんかったわ」
「どこに行ったんだろうね?」
澪以外のメンバーは誰ひとりとして色和の異変に気付いていないらしく、直紀もいつも通り話し掛けている。
そんな中、月波がやって来て言った。
「舞咲ちゃん…どこにいったのかな?」
「あ、そっか…月波って舞咲の幼馴染みや言うてたな」
「うん…舞咲ちゃん、いっつもどっか行っちゃって…」
「気にせんで大丈夫やって。
"アイツ"のことやから、しばらくほっといたら、そのうち帰って来るわ」
「…そう?」
微笑む月波。
それを見て皆、内心複雑に思いながらも微笑み返す。
だが、こういう愛想笑いがメンバーの中でも1番得意なはずの澪だけは笑っていなかった。
それは、色和の発言に密かに込められた、ある言葉に気付いたから。
"アイツ"
かつて澪の前で、色和は一度として舞咲をアイツ呼ばわりしたことなどなかった。
アンタやお前などならば、軽く受け流していただろう。
しかし色和は舞咲のことをアイツと呼んだ。
この言葉が何を意味するのか……澪はおのずと理解した。
2人の間に、かつてないほどの深い溝が出来たこと。
そして、それを作ったのが舞咲自身であるということを。
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