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□人の過去は大抵良いことが無い。
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『舞咲ちゃんは、いつもそんな笑顔なの?』

舞咲は当日七歳であった。ちなみに、兄の年齢は11歳である。兄の事件から一年後。公式なファミリーのボスとなり、その時の披露宴で澪と初めて会ったときに言われた言葉が冒頭の言葉である。様々な部類の後継者が集められ挨拶していた途中でもあった。


「え…?」

舞咲は上辺だけのこの兄の一見があってから身につけた笑いを浮かべる。見透かされた事が無かった。この笑顔が虚偽だと言うことを。舞咲は澪の顔をじっくりとみる。正確に言うと何処かで見たような顔であったので思い出していた。そして舞咲は小さく声を上げる。小さい頃、それもまだ三歳や四歳の頃、写真で見たことがあるような気がした。そして、父親が幾度も家で名前を言っていたような気がする。確か、


「白檀みお?」

あったのか目の前の澪はにこりと笑う。舞咲もそれにつられて笑った。誰だっただろう。少々疑問に思いながら舞咲は澪に近づく。

「来てくれてありがとう。はじめまして、にーにに変わって、このファミリーのボスになります。舞咲です」

未来では考えられないような可愛らしい笑顔を澪に向ける。これで澪も笑ってくれるだろう。と考えてたがそうは行かなかった。澪は舞咲を凝視する。そして、また同じ様に冒頭の言葉を吐かれてしまった。そして、それに『うそみたいな笑顔…』と付け加えられる。"嘘"確かにそうかも知れない。兄が意識をなくした途端に自分は辛くても嘘の笑顔を作り出していった。いくら、学校で暴力を振るわれようが、親に振るわれようが笑顔を作っていた。その笑顔がきにくわない。と言われて殴られる時もしょっちゅうではあったが、生意気な顔をして殴られるよりはマシだ。そう考えてずっと作っていた。


「舞咲ちゃんに、なにがあったかは、わたし、知ってるよ?」


舞咲はその言葉を聞いた途端に、警戒する。この子も月波ちゃんと同じ、同じ。信じちゃダメ。きっと裏切られて終わりだから。多分、舞咲の小さいながらも強い殺気を感じたのであろう。澪は舞咲を刺激しないように近づき手を握る。


「わたしは、貴方のお兄ちゃんから貴方を守って、て言われたの。大丈夫。安心して…わたしは、敵じゃない。貴方の見方。わたしは、貴方が大好きだら――。」



"貴方が大好きだから"安っぽい言葉である。名前しか知らない女の子にそう言われて、安心する子は少ないだろう。でも、今の舞咲はそれだけで十分であった。誰かに好かれて欲しかった。何かに必要とされたかった。でも、なかなかそれは敵わなかったのだから。自然と舞咲の頬に涙が流れる。なんでだか舞咲でも分からない。嬉しかったのもあるが他に何か、見えない何かがあるのだ。














日向谷 舞咲。
七歳。
これが初めての澪との対面となる。









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