×雲雀

□僕と君と身長と
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机の書類から目を離して返事をした。



『何の用?』


入ってきたのは山本武。
野球部のエースであり、皆の人気者。


毎日この時間になると応接室に来る。





「んー、特に用はないのな!」




ニカッと笑う山本。

反射的に僕は机の上の書類に目を向けた。





「ヒバリ?シカトか?」




シカトなんかじゃない、紅潮した顔を見られたくないだけ。



正直に言おう、僕は山本のことが好きだ。



いつからだろう?
初めて応接室に入ってきたとき?
僕のトンファーを止めたとき?
いつから好きなのかはわからないけど、この感情に気付いたのはつい最近。



「ヒバリー??」



『!わっ?!な、何?』



なんで僕の目の前に山本武の顔があるの?!

山本武はいきなり僕の顔を覗き込んできた。



「良かったー、ヒバリ泣いてんのかと思ったぜ?」



『・・・は?』



「いやー、シカトされてんのかと思ったんだけどよ、下向いてるからさー。」


そんなこと言いながら笑う君。

何気なく優しいところとかも今なら全部好きっていえるよ。


『僕が泣くわけないでしょ?』


「俺、今日来るのいつもより遅かったから心配してくれたのかなーってな!」


『馬鹿じゃない?
そんなこと僕が心配するとでも思ったわけ?
ましてや泣くなんて。』



「冷たいのなー。
ヒバリの前髪長ぇから表情がわかんなかったんだよな。」




前髪・・・切ろうかな?



山本武はハハ、悪ぃな、と言いながら僕の頭を優しく叩いた。


優しく叩いた?!



『何触ってんの?咬み殺すよ?』



や、山本武に触られたッッ///

どうしよう、すごく心臓が五月蝿いよ。



「ははっ、いいじゃねぇか、減るもんじゃないだろ?」



そう言ってガシガシと僕の頭を撫で始めた。

この・・・天然がぁっ!!///
君の行動一つ一つに僕の心臓どんだけ壊れそうになってると思ってるの?
このままじゃどんどん寿命が縮むね。



『・・・頭叩かれたせいで身長伸びなくなったらどうしてくれるんだい?』



「ぷっ・・・ヒバリ、そんなこと気にしてんのか?」



当たり前でしょ。
僕だって男なんだから!
悲しいことに僕の身長は169cm
すっごく半端だよ。
別にそこまで小さいわけではないと思うけど、もう少し欲しいものだよ。

山本武の身長は177p
無駄に長身なんだよね。
はっきり言って、目線が全然あわない。
上を向いているのも疲れるし、
何より・・・山本武と同じ目線で話してみたいんだ。





「確かにヒバリってちっせーのなー。」


そんな僕の心を知らない君は小さい小さい言う。

『僕の応接室に入って来たときも、トンファーをとめたときも思ったけど、
つくづく良い度胸してるよね、君。』


「はは、サンキューな!
でも、ヒバリはちっさい方が可愛いのな!」


か、可愛いって言われたΣ
ちょっと落ち着いてよ僕の心臓!
首元から顔が一気に熱くなる感覚がするよ!

落ち着いてよ僕!
山本武は絶対そんなつもりで言ったんじゃない!



『褒めてない、咬み殺すよ?』



「まぁ落ち着けって!!」



『ワオ、僕に指図するの?良い度胸してるじゃない。』



「悪かったって!
でもよ、なんでそんなこと気にすんだ?」







『・・・君に見下されるのが気に食わない。』





・・・・・・強ち間違ってはいないはずだよ。



「へ?なんだ、そんなことか。」


きょとん、とした顔の君。


そんなこと、じゃないんだよ。

僕にとっては重要なことなんだよ!








「じゃあさ、ヒバリ・・・、」


『な、何?』




いきなり腕を掴まれて動揺が隠せない

山本武に触られてる!Σ///

なんで君はそんなに無自覚なの?
君のそういう軽率な行動が僕の寿命をどんどんと縮めていくんだよ?!///






山本武に腕を掴まれていることからか、動転している僕の頭。
何にも考えられなくて、そのままテーブルのほうまで引っ張っていかれて、
急にグイっと引き寄せられて僕は転んだ。







『ぅわっ?!』




痛くはなかった。

転んだ先はソファー。
それだけならまだいいんだ、でも、僕とソファーの間には山本武がいた。


『な、何してるの?!』



立ち上がろうとしたけど、それは腰に回された腕に阻止された。



「まーまー、落ち着けって。」



はは、っていつものように笑うけど、僕はそれどころじゃないの!!///



『落ち着けるわけないでしょ?!何なの?』



「んー?ヒバリが俺に見下されるの嫌だって言ったからさ。
ほら、これなら目線同じくらいだろ?」


そういわれてドキッとする。



[これなら目線同じくらいだろ?]・・・・・・それは抱き込まれてる状態で、
まだ山本武のほうが目線は上だけど、いつもより凄く近くて、更には腰に手が回されてて、
すごく恥ずかしい!!




『だからってなんでこんな体勢なのさ!』


「えー、これしか思いつかなかったのな。」



山本の頭グッジョブ!!Σ///


息がかかるほど顔と顔が近くてすごく恥ずかしいけど、離れたくない、
このままの体勢でいたいって思う僕がいる。





『・・・君、馬鹿だね。』


「おー、おう。馬鹿は馬鹿でもヒバリバカだぜ?」


『!!』



そんな恥ずかしい台詞をニカッと効果音が付くくらいの笑顔で答える君。




『〜馬鹿っ!!』



恥ずかしすぎて山本の肩に顔をうずめた。

あれ、僕今すごく積極的な人になってない?Σ



「ひ、ヒバリ?どうしたんだ?」


『なんでもないよ。』


この無自覚天然野球馬鹿!!///


















それから少しの沈黙が続いて、
それを破ったのは山本武のいつもとは違った、落ち着いた声。




「なぁ、ヒバリ、」


山本武の片手が僕の頭に回ってきて、ギュッと抱き締められた。



『何?』




祈るような、真剣な、切ないような彼の声。






「ヒバリは、ちっさいまんまでいーぜ。
ていうより、ちっさいまんまで居てほしいのな。」



『・・・何で?』





山本武の身体が強張る。



「・・・だって、・・・俺がヒバリを抱き締める理由がなくなっちまうだろ。」



こうやって今みたいに、と君は付け足して、更にギュッと腕に力を入れた。










『・・・理由なんて、なくたっていいよ。』



僕は身体の力を全部ぬいて、全体重を山本武に預けた。




『そんな理由探すくらいならいつも此処に来る理由を探したらどうだい?
僕にとったらそんな理由はいらない。』







『馬鹿は馬鹿らしくそんなこと考えなくていいんだよ。』


僕は願うように淡々とつづけた。





「ヒバリ・・・それってどういう意味で言ってるんだ?」


少し驚いたような声で僕に問いかけた。



『さぁね、自分で考えたら?』



「・・・じゃあ本気にして、いいのか?」



何を、なんて野暮なことは聞かないし、彼もそれを望んではいないだろう。





『・・・僕は冗談なんて言えるほど器用な人間じゃないよ。』





好き、好きだよ、好き

君のことがたまらなく好き

このまま時間がとまってしまえばいいのに、なんて乙女チックなこと考えちゃうくらい好きだよ















昨日の雨で、すっかりと晴れた空。

蒼く透けるような大空。

その下で楽しそうに笑う君。


それを見てはモヤモヤと曇りつつあった僕の心。










『ねぇ、山本武。』




「ん?なんだ?」




『こうしていると、僕の心にかかったモヤモヤが全部消えていくみたいだよ。』













END
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