戦国BASARA

□小さな手でしか掴めぬモノ(蘭信)
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闇夜、信長の寝所のふすまががらりと開いた。

「丸か…」
信長は床に横になったまま振り返らずに言った。
ふすまが閉じる音が静かに落ちる。
「また怖い夢でも見たのか?」
振り返らない信長に小さな気配が近づいてくる。

信長が布団を少しだけ空けてやると外気に少し冷えた体がぴとりと寄り添って入ってきた。

「信長さまが一緒なら怖くないです」
信長の夜着にしがみついて蘭丸はふ、と笑った。
信長がその頭を振り返ってくしゃりと撫でた。

「子供だとおっしゃりたいのでしょう!」
蘭丸は顔を上げて頬を膨らませた。
「わかっておるではないか」
信長が口の端をつり上げる。
蘭丸は口を尖らせながらもすぐに笑った。
信長に子供扱いされるのが蘭丸は好きだった。
世間に‘魔王の子’と言われるのもくすぐったいような誇らしさを感じていた。そして―…
この人の前ではいつまでもかわいい子供の‘丸’でいたいと思う反面子供ではなく男として見て欲しいという感情を覚え始めていた。

「おやすみなさい 信長様」
蘭丸は布団のなかで信長の手を探り当ててぎゅっとつかんだ。
筋がすらりと通った長い指が気持ちよかった。
「この手で頭を撫でられるのが好き」

小さな声で呟いた言葉は信長の耳にはもう届かないようで耳を澄ますとかすかな寝息が規則正しく聞こえてくる。

握った手を外して指を絡めて繋いでもキレイな音は乱れることを知らないようだった。

無防備に薄く開かれた唇にもう片方の手でそっと触れる。

触れた指の先を自信の唇にそっと添わすと蘭丸の胸はぎゅうっとなった。

キスしたい
肌に触れたい
奥を知りたい―…

だけど

今はもう少し
もう少しだけ子供ということを利用した―…

なんの警戒もなく背中を見せる自分だけに見せる隙がたまらなく愛しいから―…
早く大人になりたい、追いつきたいとはやる気持ちも
この胸の痛みもちいさな欲情も

もう少しだけ潜ませておこう―…

蘭丸はひとり頷いて絡めていた指をほどいてもとのように手を繋ぎ直した。

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