トリコ
□好きな2人だから
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トリコさんに誘われて久しぶりにココさんの家を訪ねた。
連絡もしてないのにドアをノックするより早く内側から開いてココさんの笑顔に迎えられた。
「来るのはわかってたからね」
一瞬目を見開いた僕にそう微笑んで僕もつられて笑顔になった。
リビングに通された僕はまた目を見開くことになるんだけれど―…
「松!!トリコ!」
リビングのドアが開かれると飛び込んできたのは鮮やかな色彩と驚きと喜びを混ぜた笑顔。
サニーさんだった。
「来てたのかサニー」
後ろを歩いてたトリコさんが少し嫌そうに頬を撫でたから多分サニーさんの触覚に触れられたのだろう。
正直ごく一般人の僕にはわからない。
触れられてる?
触れられててほしい。
こんな時ばかりはグルメ細胞を持つこの人達をうらやましく思った。
「3日前からな」
そう言って座っていた席に戻ったサニーさんは相変わらず言葉使いとは裏腹に美しかった。
高い位置で綺麗に一つにまとめられた髪には白銀に綺麗な細工を施された髪飾り。
「つくし―だろ?これ」
僕の視線に気づいたのかサニーさんは唇の端を上げてその髪飾りに長い指を添えた。
「あ、はい…よくお似合いです」
「だろ?」
当然、と言わんばかりに満足そうにサニーさんは頷く。
「プラチナ?高そうですね」
サニーさんの髪の白銀と交わるように自然に輝くその髪飾りはこれ見よがしな宝石なんかがはまっていない分品がよくて装飾品には疎い僕から見ても嫌みがなく好ましい。
「そだっけ?」
サニーさんがそう言って振り返った先には人数分の飲み物を持ってきてくれたココさん。
彼は当たり前のようにサニーさんの隣に座って苦笑してみせた。
「まぁあのお店の中では一番高かったかな?」
「(べ)つに値段で選んでねーし!」
サニーさんがむくれるとココさんは軽く頭にぽんぽんと触れて
「わかってるよ。よく似合ってる」
と言って手を離す。
「ならいーし」
とサニーさんは広げかけてた髪を収める。
「相変わらずココはサニーに甘いな」
とトリコさんが呆れたように口にすると
「一つだけだよ。
まぁ…丸1日買い物に付き合わされるとは思わなかったけど。
…キッスをタクシー代わりに使われたのも予想外だったけれど。
ほんと、困ったお姫様だよ。」
「んだとぉ?!」
やれやれと言った感でため息をつくココさんも唇を尖らせて抗議するサニーさんも口や態度とは違いなんだか楽しそうに見える。
ああ、僕にはそんな高価なものを買ってあげることはできないしそうやって10pは高い位置からサニーさんが好きそうな綺麗な微笑みを投げかけることもできない。
ミルクも砂糖も入れたはずのコーヒーが急に苦くなった気がして僕は来たことを後悔した。
ココさんが大好きだ。
トリコさんの次くらいに好きだし尊敬してる。
なのに
なのに
なんでこんなに疎ましい気持ちになっているんだろう。
考えなくても答えは明確だけど。
美食屋も四天王の一人のサニーさんならどんなに高くても欲しかったら金額など気にせず装飾品の一つや二つ買える。
キッスに乗らなくても高級車を手配することも容易だろう。本当に態度通りあまり好きでないなら隣に座ることを許さないはずだ。
サニーさんはとことんココさんに甘えてるだけでココさんは甘やかしたくて仕方ないのだ。
ああ彼を知れば知るほどそのわかりやすさが可愛いと思う反面憎らしい。
わかってしまえばツンツンしたその態度もすべてがココさんを大好きだと言ってるようで僕はいたたまれない気持ちでいっぱいになった。
目の前にはあまりにも完璧にお似合いな二人。
「なんだお前ら収まるとこ収まったんだな!」
もくもくと出されたつまみを咀嚼することに夢中だったトリコさんの一言にココさんが目を見開いて頬を染めた。
初めて見るココさんのらしくない顔を可愛いなんてうっかり思ってしまって僕は情けなくなってため息をついた。