ひらこ小説

□星屑と手のひら
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星空は嫌いだ。世界に見下されている様で腹が立つ。

僕の隣には、寒空の下白い息を吐いている貴方が居た。



「あ…!そーすけ、今見えた!!」

「え…どこですか」

「アホやなァ、ずっと見とらんからや」



細い指で天を差し、得意気に言う貴方。貴方は勝ち気だから、僕は見えなかったふりをしてやる。



「…では、もう部屋に戻りましょうか」

「何でやねん、一つ二つじゃ満足せんわボケ。それに惣右介まだ見えとらんやろ」

「はぁ、まあ」

「何や、見たくないんか」

「別に、そういう訳では」



本当は、貴方と2人で何かを見るという事に意味があるから。



「惣右介、知っとるかー?」

「何ですか」

「流れ星てな、流れてる間に三回願い事言うと叶えてくれるんやて」

「知ってますよ、隊長がこの間わざわざ見せに来た現世の本に書いてあったんじゃないですか」

「はー、そやったっけなァ」

「…………隊長は、何か願い事したんですか」

「んー」

「………」



貴方がはぐらかしたのでそれ以上追求するのは止めておいた。
言いたくない事まで言わせる必要もない。



「…惣右介が、消えへんこと」



てっきり言わないのかと思っていたから、少し驚いた。

貴方は本当に鋭いから、時々困る。



「…別に、消えませんよ」

「ホンマかー?…じゃ、そういう事にしといたる」



貴方が淋しそうな顔で笑うから、抱き寄せて包み込んでしまいたくなる。
けれど僕には、それは許されないことで。



「惣右介は、見えたら何願い事するん?」

「僕は…」



訊かれても咄嗟には答えが出ない。何かに願うなんて、僕には必要の無いものだから。



「あ…!」



貴方が、また短く歓声を上げた。



「惣右介ぇ!見たか、今の」

「…見えました」



瞬く星々の間を駆ける一筋の光。無意識に願っていた自分はきっと、愚か者。



「何か願ったん?」

「はい、でも」

「でも?」

「でも、秘密にしておきます」

「何でやー俺言うたやろー」

「秘密です」

「…惣右介のけち」



貴方は唇を突き出す仕草をする。


―そんなに可愛い仕草をしても、教えませんよ。


教えたら、きっと僕は揺らいでしまうから。



「…冷えますから、もう戻りましょう。戻ったら何か温まるもの淹れて差し上げますから」

「温まるもんなんて要らんわ」




「惣右介に、あっためてもらうんやから」


悪戯っぽく言って、僕の顔を覗き込む様にしてはにかむ貴方。
期限付きのものは、何時だって愛おしい。
それはとうに分かり切っている事。














(貴方が、幸せで居てくれれば、それで)


(貴方が、此の世界から消えてくれれば、それで)









僕はどうしようもない愚か者だ。
















END
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