黒糖小説
□笹舟
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ちゅ、
「もしかして、」
頭ひとつ分以上下にある紫色の髪が揺れる。
「君だけが優位にいると思ったかい?」
一瞬間惚けていた俺は、まじまじと眼下の下まつげ野郎を見つめた。
「与えられうる情報も、拾われうる可能性も、此処では同等だろう?」
頬にあてられた掌はするすると滑り、やがて生え際を行き来する。
撫でられる様な感触が気色悪い。
「君の方が、よく知っていると思っていたのだけどね」
もう片方の掌を黒包帯に包んだ右目に重ねると、紫野郎は軽い嘲笑を漏らす。
俺に比べれば遥かに新参者のくせに、どんな生意気野郎だ、くそ。
「行くよ、」
目障りな程群れをつくったまま、野郎は背を向けた。
気に食わない、くそやろう。
今までだってこれからだって、俺は気に食わないやつは殺す、つもりだけれど。
だから本当は、今すぐにでも野郎の心臓を抉りだしてしまいたい、のだけれど。
「君がまた上に戻ってくるのを、楽しみにしているよ。お返しがたくさん溜まっているんだ」
天井の扉が閉まって、視界はまた沈んでいく。
俺の身体は動かない。冷たい鎖の布団の中で、眠りを続けるしかない。
きっと、俺がまた上に行く頃には、野郎は砂丘の一部だろう。
もっとも、上に行く前に、俺が右半身に呑み込まれたらそれ迄だ。
俺の長い記憶の中で一時だけまばゆい光を放った少年は、対比する様に暗闇に俺を放り込んだ。
踏みつけた紫は嘲笑を浮かべ、雑魚どもはまた破壊に徹する。
滑車を回しているよりは、ここで休んでいる方がいいと、思う俺はもう駄目なのかも知れない。
紫の不可解な行動も、どうせただ滑車の一部でしかないのだろう。
ああ眠い、瞼が重い。
目覚める時に紫の首を捻切ることを考えれば、少しだけ夢見がましになるかもしれない。
(空虚さを忘れる様にと)
END