ひらこ小説
□保育園
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「ほな、また明日な」
手を振ってやると、嬉しそうに振り返してくる。
ここはとある保育園。
時刻はもう5時をとうに過ぎていて、園児は2人しか残っていない。
「ほら、惣右介も喜助ももう片して帰る準備せぇ」
遊んでいる2人に声をかける。
「分かりました、平子隊長」
惣右介が応える。
「こら惣右介ェ、変な喋り方するな言うてるやろ。てかその隊長いうんもいい加減やめぇ」
「隊長は、隊長ですから」
惣右介のその笑顔は、全然子供らしくない。
「アホか」
適当にあしらってやると、今度は喜助が応える。
「了解っス、平子サン」
こちらも全然子供らしくない。
「あーもう2人共もっと子供らしくせえや!!」
一喝してため息をつく。
この2人、本当に保育園児なのか、謎だ。
平子が考え事をしていると、惣右介が近くに寄ってきていた。
「なんや惣右介。片付けせぇ言うたやろ。早よせんと迎え来てまうよ?」
じっとこっちを見つめてくる。こうして見ると、しっかり幼児なのだが。
「…隊長」
「ん?…った、いたたた、ちょ、髪引っ張んな惣右介!!」
平子の綺麗な金の髪を一房、頭を押さえながら引っ張っている。
「しゃーから痛い言うてんねん。手ェ放しィ!」
平子は涙を浮かべながら怒鳴る。怒鳴っても、惣右介は夢中になったようにその動作をやめない。
「隊長、可愛いですね」
「お前はホンマに可愛ないわ、子供のくせに!」
惣右介の余裕の表情が悔しくて、言い返す。というか自分は本当に先生というものに向いていないな、と平子は改めて思う。
「藍染サン、僕の平子サンに何やってんスか?」
喜助も寄ってくる。
「2人共先生のことはちゃんと先生呼びィ。てかホンマに放して惣右助!」
喜助が惣右介に寄っていって叩く。
「何ですか浦原隊長」
「平子サンの泣き顔を見ていいのは僕だけっス」
「何を言ってるんですか。隊長は僕のものなんですよ?」
惣右介がやっと平子の髪から手を離す。2人の台詞には、あえて突っ込まないことにした。
平子が安堵している間に、惣右介と喜助の取っ組み合いの喧嘩が始まった。
「こら、喧嘩したらアカンて」
平子が間に入ると、
「隊長は黙っててくれますか」
「平子サンは黙ってて下さい」
ハモった。平子は小さく吹きだしてしまう。この二人、なんだかんだで息はぴったりなのだ。
吹きだした平子を見て二人はむっ、とした顔をする。
「平子サン、何笑ってるんスか」
「隊長、笑うところではないですよ」
「あ、スマンなァ。あんまり二人が仲ええから」
両手で2人の頭を撫でてやる。
「せやからほら、仲直りしィ」
2人はお互いを見合って、暫くしてこくん、と頷く。
ふと、平子は2人を堪らなく愛しく感じた。子供らしくなくて、可愛げも無いけれど、何だかとても愛しかった。
平子はぎゅ、と2人を抱き寄せた。小さな手が、平子の服をきゅ、と握る。
「2人共、元気に大きくなるんやぞ」
この2人も、いつか自分を追い越すことになるのだと思うと、何だか切ない気持ちになった。
翌日。惣右介と喜助は、2人揃って珍しく朝一番に来た。
「おはようさん」
声をかけると、2人で寄ってきて、平子の服の裾を引っ張る。
「ん?何やねん」
平子はしゃがんで2人と目を合わせる。
と、
ちゅ。
頬っぺたに当たる柔らかいもの。唇を離した2人はまた、息ぴったりなハモり具合で、
「おはよう、先生」