ひらこ小説

□SUMMER FESTIVAL
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「夏祭り…ですか?」

「せや!今度流魂街であるらしいねん!」

何時にも増して暑い日の午後のことだった。隊長は何処からか仕入れてきたであろうその情報を、目を輝かせて披露した。
知ってますか隊長。貴方のその愛らしい目が輝くと、僕が苦労する、というプロセスが出来上がってるんですよ?
正直僕は疲れていたが、この人はいつも言いだしたら聞かないのだ。駄目だと言っても無駄だろう。仕方がないから、それまでに必ず仕事をする、という約束で、一緒に行ってやることにした。が、そんな約束が守られないのもまた、いつものことだ。

「浴衣着ていきたいねんけど」

「浴衣、ですか」

「夏祭りに行くんに死覇装いうんもあれやろ?」

「そう言われてみれば、そうですね」

「しゃーから、今から買いいこ!オマエの分も俺が選んだるから!」

「今からって…執務中ですよ。駄目です」

「何やねん、惣右介のケチ」

口を尖らせて抗議する隊長。可愛いけれど実際執務中なので仕様がない。

それから、わぁわぁ言う隊長になんとか仕事をさせた。執務時間の終わりを告げる鐘が鳴ったのを聴いた隊長の顔は、晴天の秋空のように晴れ晴れとしていて、僕は苦笑する。







「なぁなぁ、惣右介ぇー似合うかぁ?」

着物屋で早々に浴衣を選んで試着する隊長。ぼくの前でくるりと一回転して見せる。
貴方なら何を着ても似合いますよ。

「…アホ」

顔を赤らめて横を向く隊長。僕は本当の事を言っただけですよ?
そう言うと、隊長は赤い顔のまま店内を走っていってしまった。



「ほら、これなんか惣右介に似合うんちゃう?」

暫くして戻って来た隊長は、自分の浴衣をさっさと決めてしまったらしく、今度は僕の浴衣も楽しそうに選び始める。
貴方の選んだものなら、何でも。今度は口に出さないでおく。口にだしたら、赤い顔をした貴方に、叩かれてしまいそうだから。

「惣右介ェ、なぁってば」

「では、それにします」

「着てみなくて良いんか?」

「…着てみた方が良いですか?」

「別に、そういう訳やない、けど…」

隊長は分かりやすい。俯いて残念そうな顔をして、何が『そういう訳ではない』だ。

「では、着てみましょうか」

ぱぁ、と明るくなる表情。本当に素直な人だ。

隊長が僕に選んでくれたのは、藍色の地に紺色の四角い模様の入った浴衣だった。着ながら、いそいそと浴衣を選ぶ隊長の姿を思い浮べて、吹き出してしまう。天下の護廷十三隊の隊長様が、浴衣を楽しそうに選んでいるなんて、ミスマッチもいいとこだ。まぁ、そんな所が可愛いのだが。

「着れましたよ。どうですか?」

「おお、ええやん!さすがは俺の見立てやなァ」

満面の笑み。
まるで自分のことのように楽しそうだ。

「夏祭り、楽しみやなァ」

僕を見上げてまたニカ、と笑う。

「そうですね」

そう言って、おでこに軽いキスを落としてやると、隊長は恥ずかしそうに、でも嬉しそうに、僕の胸に顔を埋めた。
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